呉智英『バカにつける薬』

知らない人は「呉智英」の読み方を戸惑ってしまうかもしれないが、「くれ・ともふさ」でも「ご・ちえい」でも良いらしい。ややこしいのでどちらかに統一して欲しいと思うのだが、それはともかく呉智英はヒューマニズムが大嫌いである。近代民主主義も大嫌いで、「近代民主主義とは一言で言えば、バカは正しいという思想」とコキ下ろしている。そして、こんな過激思想の持ち主であるだけに、呉智英は「バカ」も大嫌いで、しかもそれを公言している。

そんな呉智英が「バカ」と論争(喧嘩)しまくっているのが本書である。「論敵を次々にバカ呼ばわりし」て論争を惹起することで、「沈滞する思想界にゆさぶりをかけ」ることが目的らしい。確かにバカバカ言われたら相手もムカつくから、何人かは見事なまでに喧嘩に乗ってくる。しかし呉智英は「バカ」の相手が大好きで、しかも「バカ」の相手をするのは慣れている。そのため、そんじょそこらの「バカ」では呉智英の土俵で良いように相撲を取らされてしまうだろう。本書では、そんな哀れな「バカ」が何人も拝める。