中島梓『コミュニケーション不全症候群』

中島梓は「グイン・サーガ」で有名な栗本薫の別名である。「1日に100枚書く」「1ヶ月に1冊の本を出版する」などの伝説を持つ、あの栗本薫である。栗本薫名義ではやおい本やSFを書き、中島梓名義では評論っぽい本を中心に書いているようだ。

大学で課題図書になったため読んだ本なのだが、読み終えて思った。

凄まじい本だ!

本書は社会学関連の雑誌や書籍、社会批評みたいな文章でもよく引用されているが、厳密に学術的な本ではない。しかし社会学や心理学の分野でアカデミズムの重要文献となっているのも確かに頷ける名著である。そもそも「コミュニケーション不全症候群」という言葉は、元はと言えば中島梓が考案した言葉なのだ。

ごく簡単に内容を紹介すると、コミュニケーション不全症候群とは人々が過密する現代日本に蔓延する「他の存在」への想像力の欠如を特徴とする心理を指す。これは近代と分かちがたく結びついている病気であり、それは「オタク」「ダイエット症候群」「JUNE」などといった症例として現われる。症状が重くなれば宮崎勉のようになってしまうが、症状が軽いからといって問題を軽視して良いわけではない——といったアウトラインで大きくは外していないだろう。

ただし、「コミュニケーション不全症候群とはそもそも何か」といったことは簡単には説明できない。上記ではわたしなりの理解で便宜的かつ簡便に定義しているが、非常に根深く、複合的で、また現代日本の象徴的な症候群(シンドローム)であり、単純に要約してしまえるようなものではない。「コミュニケーション不全症候群」という言葉の持つニュアンスをしっかりと知りたければ、あるいは一度でもコミュニケーションや人間関係に悩んだことがあるなら、一度でもダイエットをしてみようと思ったことがあるなら、一度でも自分や社会や世界に違和感を持ったことがあるなら、ぜひとも本書を読んでみるべきである。本書のテーマは、万人が真剣に考えるべき重い重いテーマなのだと思う。必読。