写真:大谷英之 文:大谷淳子『ありがとう大五郎』

小学校の頃、父親が俺のために図書館から借りてきた『大五郎は天使のはねをつけた』という名前の本を読んでボロボロに泣きまくった思い出があるのだが、本書は、その本を書いた著者が書いた本である。「大五郎」という名前が懐かしくて購入してしまった。

先天的に四肢の欠落したニホンザルの奇形児を著者の家族が引き取って育てた、その2年余りの成長記録が本書である。一時期ニホンザルの奇形児が頻発したそうなのだが、その理由は未だにハッキリとはわかっていないそうだ。ただ大五郎の存在が(人々に対しても俺個人に対しても)今一度「人間と自然との関わり」を考えさせる契機になったことは確かだろう。大五郎の存在は多くの論点を孕んでいるし、ニホンザルの奇形児がほとんど発生しなくなった現在においても、大五郎の呈示した論点はいささかのリアリティをも失っていないのだと思う。