天野一哉『子供が「個立」できる学校』

チャータースクール制度を日本に紹介する本と捉えて良いだろう。チャータースクール制度とは、自治体と保護者などの市民が「特別認可契約」を結び、公立学校を運営するシステムだ。いわば公立のフリースクールである。カリキュラムなどで「自由」が与えられる反面、学力面などで一定の成果がないと、認可を取り消されるという面で「責任」も負わなければならない。そうしたチャータースクールの特徴や、先行するアメリカの状況、日本での取り組みについて述べられている。

面白い試みだとは思ったが、どうにも引っかかる点もあった。それは、炭谷俊樹の「自己流でやらないこと」という戒めに集約されている。確かに「誰にでも合う教育は誰にも合わない」という公教育に対する批判は、一面では正しいと思う。しかし、では「合う教育」とは何であろうか? ここに落とし穴があり、自己の視野狭窄的な思想や限定された経験を理想と履き違える人も実に多いのである。自己流という罠を乗り越えない限り、日本にチャータースクールが浸透するかは疑問だし、浸透したとしても、教育のベストフィットは決して得られまい。待っているのは既製の公教育と同じ陥穽である。

客観的にレポートしているつもりなのかもしれないが、著者の浮かれぶりを見る限り、俺はどうしても「ユートピア」的にチャータースクールを持ち上げているという印象を最後まで拭えなかった。期待はしている。しかし少し心配だ。「ユートピア」的なものを俺はほとんど信用していないからだ。チャータースクールの試みや筆者の思いが適切な形で結実することを祈るのみである。