大前研一『サラリーマンIT道場』

「サラリーマン・サバイバル」シリーズ第3弾。「これから先、日本がネットワーク社会で栄えていくためには、教育が3つのレベルで根本から変わらなければならない。第1に語学、第2にITリテラシー(情報技術能力)、第3に知的付加価値を生み出す頭脳(論理思考力と構想力)である。この3つがセットになって初めて、ネットワーク社会で富を創出できる人間になれるのだ」という(実に真っ当な)考えを持つ大前研一が、一般的なサラリーマンのITリテラシーを向上させようとしたのが本書である。

大前節は健在で、他と内容の被っているところもあるが、確かに説得的な内容が多い。確かにブロードバンドといっても、ブロードバンドで何をするかという議論は不思議なほどされていないのだ。ブロードバンドで運ばれるデータはエロ系とネットゲームが大半なのに。またテレビやラジオを受信できるといっても、どこの家庭にもテレビやラジオはあるし、実際そっちを利用する方が楽だ。HDDにデータを保存すると言ったって、じきにテレビ用のHDDレコーダやDVDレコーダも普及レベルに到達するのに、わざわざ机に座ってPC画面でテレビを観るのだろうか?

それに、確かに過疎地に光ファイバーを導入する意味なんて全然ない。ダイヤルアップやISDNに比べたら確かにADSLは速くて便利だが、採算が合わなくて民間のADSL業者も手を出せないような過疎地に、光ケーブルのような手に余る代物を積極的に導入する意義は全く見えない。ジジババにはダブルクリックから教えなければならないのに! 結局は大前研一の言うようにITゼネコンと化して、「IT事業を行うこと」「IT環境を導入すること」だけが自己目的化して、醜く利権を争うようになるのだろうか。