勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術 自分をグーグル化する方法』

2つの点で、勝間和代は大前研一に酷似しつつある。

まず第一に、自慢話が多すぎる。最年少で会計士試験に合格したとか何とか賞をもらったとか、確かに事実なのだし隠す必要もないのだが、言い回しのしつこさや全ての本で漏らさずアピールしてくるあたりが、かなりの勢いで大前研一に近づいてきている。巻末の著者経歴では駄目なのだろうか?

そして第二に(こちらの方がより重要なのだが)本を出すスピードが速すぎる。共著を含めると、2007年の1年間だけで何と著書7冊と手帳2冊を出している。そのうち『無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法』『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』の2冊セットと本書の内容は(同じとは言わないまでも)明らかに重複している。内容の連続性というよりは、やはり内容の重複である。それに手帳は2つも要らないだろう!

もちろん内容自体は本書も決して悪くない。勝間和代のアドバイスは的を射ている上にツールなどが具体的で、非常に参考になる。勝間和代の本に影響されて先日フォトリーディングの講座に参加してしまったくらい、俺は勝間和代の著書に強い好感を持っている。それだけに、こうした形でノウハウを分散させて出しているのは「残念だな」と思う。個人的な読書経験で恐縮だが、この読後感は非常に危険な兆候で、書き手は早晩、個人的にも世間的にもコモディティ化の道をひた走るのが大方のパターンである。梅田望夫のように執筆のサバティカル期間に入るか、ペースを落として練り上げた本を書くか、どちらかの方向に進むことを期待する。

ところでコンサルタント(あるいはコンサルタント出身者)によって「フレームワーク思考」が取り上げられる度に、どうしても気になる点があった。それは「フレームワークの重要性は皆が説くが、フレームワークそのものを数多くあるいは体系的に紹介した人はいない」ということである。フレームワーク思考のメリットは大きく「思考の抜け漏れをなくす/思考の抜け漏れがないか点検できる」ことと「情報の整理・分析の効率を上げる」ことではないかと俺は考える。前者は、何かひとつ既存のフレームワークを選択するか自分で考えれば良い。ロジカルシンキング系の著書は幾つもあるし、良書も多い。しかし後者は、全ての事象のフレームワークをゼロから作ってMECEかどうかを詳細に検討していたら、とても効率的な仕事とは言えまい。それどころか仕事が回らなくなる。節操なく略字だらけのビジネス用語を集めたビジネス用語事典ではなく、フレームワークとその活用方法を100個くらい詳細に解説した本があれば1万円を出しても買うのにな……と思っていたら、本書のP72に興味深い内容があった。

 マッキンゼーにはフレームワークだけを集めた基本マニュアルがありますので、毎日そのマニュアルを眺め続けました。だいたい200くらいの基本パターンを覚えることで、ようやく1人前のコンサルタントとして活躍することができました。とにかく、量的な拡大を行うことで、はじめは質を補っていくわけです。
 どうやってフレームワークを手に入れるのか、ということを疑問に思うかもしれませんが、誰もそれを明示的にフレームワークといっていないだけで、多くの情報はすでにフレームワークにしたがって整理されています。

この2つのパラグラフはどうしても納得がいかない。なぜなら勝間和代自身が、質を補うために200ものフレームワークを覚えることで初めてコンサルタントとして活躍できるようになったと書いているのに、読者には明示されていないフレームワークを自分で探しなさいと言っているのである。自分で簡単にフレームワークを見つけたりゼロからフレームワークを作り出したりできる人間は、勝間和代の本を読んだりはしない。自分の仕事に苦しみや悩みや葛藤を感じ、今の能力や仕事では得られないヒントを得て更に成長したいから、他人の仕事術の本なんて読むのである。それなのに自分の成長モデルと異なるアドバイスをするというのは、あまり誠実には思えない。

勝間和代の次の著書は、ITやツールを十分に活用した、マッキンゼーの基本マニュアルを超えるフレームワーク集になれば良いなぁ、と期待している。もちろん勝間和代以外でも、この手の本を書いてくれたら、俺は真っ先に購入するだろう。