片桐一郎『ひらめく人を咲かせる組織』

「ひらめく人」とは、単なるアイデアマンといったレベルの話ではなくて「独創的な成果を上げる人」のことだそうだ。また「咲かせる組織」とは、ひらめく人を組織として活かせる「創造開発組織」のことだそうだ。日本は、個人としては独創的な成果を幾つも挙げているのに、それをチームや組織として結実させるマネジメントの能力が乏しい――と(ワトソンワイアットの組織・人材コンサルタントである)著者は考えており、「独創を結実させるには?」という課題を組織・リーダー・個人という3つの視点から検討した本である。

「日本語自体が情緒をあらわすには優れていても、論理表現には不向きなところがある言語である」という著者の指摘には(根拠らしきものが述べられてはいたものの)全く賛同できないが、それ以外は非常に興味深い指摘が多いし、安易なネーミング戦法に逃げていない点は好感が持てる。

いろいろな手法があるようにみえるが、結局、戦略的な思考は二つに分けられるようだ。ひとつは「選択と集中」、もうひとつは業務の流れの「清流化」である。前者はGEに代表されるように、自社の強み・弱みと市場の可能性を見てナンバー1かナンバー2になれそうな分野に経営資源を集中し、そうでない分野からは撤退するといった考え方である。後者はトヨタ自動車に代表されるように、ジャストインタイム、必要なときに必要なものを提供するプロセスを磨くという考え方であり、SCM(サプライチェーンマネジメント)などはそのIT版である。

上記の指摘はとても本質的で、ずっと頭に留めておくに値する図式である。例えば、先日の『チャイナ・インパクト』も、大前研一の主張は「選択と集中」「清流化」の文脈から捉え直すことができる。ビジネスシーンにおけるテクニカルターム(本書では揶揄的に戦略ジャーゴンと呼ばれている)は、俺が知っているだけでも数十種類はあり、その大半は出ては消える流行言葉に近いものである。しかし本書は、そうした流行り廃りではなく、もっと本質的な「戦略・人・組織をどのようなバランスとメカニズムでどのような場に配置するか」といったことを誠実に述べているのだと思う。オススメ。個人的には、この指摘だけでも必読。