荒俣宏『帝都物語 第参番』

帝都物語〈第参番〉 (角川文庫)

帝都物語〈第参番〉 (角川文庫)

350万部も売り上げた、言わずと知れた大ベストセラーシリーズの第3巻。以前は全12巻だったようだが、阪神大震災の起こった95年、全6巻の新装合本版として刊行されている。本巻は『帝都物語5 魔王篇』と『帝都物語11 戦争(ウォーズ)篇』を合本再編集した新装版。本巻は、日本が軍国主義へと傾倒し、戦争に突入していく時代を背景としているが、魔王篇の「魔王」というのは魔人・加藤保憲ではない。法華経のシャーマンでもあり二・二六事件を背後で操った、北一輝である。北一輝のキャラの強さは『帝都物語』シリーズに深みを与えていると思う。
本巻での魔人・加藤保憲は、『帝都物語 第弐巻』で関東の地霊・平将門の抵抗に会い、辰宮洋一郎の妻にして巫女・辰宮恵子をかどわかして満州に連れ去り、馬賊の親玉としてソ連国境を荒らし回っている。「帝都」東京に対する加藤保憲の憎悪を辰宮恵子が全力で抑え込んでいる期間とも言えるし、次なる帝都破壊のための英気を養っている期間とも言える。
本巻で個人的に特に面白かったエピソードは2つ。1つは、病床の寺田寅彦幸田露伴が見舞うシーンである。加藤保憲という宿敵に立ち向かった2人が、病気と死を前に、改めて交流を深める――というあたりが、史実をなぞっている点も含めて、深い。もう1つ、荒俣宏が最も気に入っている、魔人に翻弄され続けた娘・辰宮雪子の悲恋のエピソードも必見であろう。これは俺も気に入っているエピソードだ。
本巻は、魔人・加藤保憲の暴虐はないものの、シリーズ全体の深みを醸し出すエピソードがたくさん含まれている。やはり猛烈に必読と言えるだろう。