林明輝『Big Hearts ジョーのいない時代に生まれて』1巻

Big hearts 1 (モーニングKC)

Big hearts 1 (モーニングKC)

大手広告代理店のマーケティング担当だった主人公は、30億円の取引がかかったプレゼンの場で、緊張のあまり(徹夜明けに食べた牛丼弁当を)嘔吐。会社を辞めた主人公は「つまらないことを忘れたいんです」とボクシングジムに通い始めるが、デビュー戦でいきなりの黒星――といったプロローグ。膨大なリサーチを重ねて書いているんだなあと思わせる丁寧な作りで、漫画としては非常に面白い。
「弱い主人公が逃避的に始める」ボクシング漫画だけに、派手な必殺パンチは全く登場しない。あくまでも淡々とボクサーの日常が描かれる。しかしボクシングは元々ストイックなものであるように思う。地味でストイックな淡々とした反復練習なしに、あそこまで研ぎ澄まされた攻防は展開できないだろう。主人公の所属するボクシングジムの会長の発言は、なかなかグッと来る。

漫画じゃねえんだからよ 必殺パンチなんて見たかねえんだ!!
鍛錬の末の無意識の一発が見てえのよ!!
あれ? どれが入ったんだよ
つーようなパンチで……
スコ――ンと相手の腰が落っこちるようなヤツよ!!
そういう 勝敗を分ける100分の何秒かのために
何十日も何百日も練習を重ねるのよ!!

ちなみに林明輝は、40歳の新人漫画家。本書の主人公と同じく大手広告代理店に20年近く勤務していたそうである。作者のエリートサラリーマンとしての経験が、主人公の造形にも活きているようだ。