松田洋子『赤い文化住宅の初子』

赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)

赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)

狭いボロアパートに高校中退の兄と2人で暮らし、親もおらず、ケータイどころかテレビも電話も新聞もなく、担任も無気力でサポートは全然なく、好きな少年と同じ高校に行きたいけれど金がなく、こっそりラーメン屋でバイトするも「中学生がカネカネいうな」と雇い主のオヤジに金をちょろまかされる――という、実にステレオタイプかつ強烈に「薄幸」を体現する少女・初子。物語が進んでも、特に状況が改善するわけではなく、むしろ閉塞感は日増しに強くなっていき、最後は住む家まで燃えてしまう。
半端じゃなく悲惨極まりない生活なのだが、それでもどこかユーモラスな雰囲気が残っているのは、広島弁の美しい響き故か。それとも初子と少年の美しい恋のおかげ?
初子に対する少年のセリフが良い。

こんなんで終わらすかあ!
わしらは家族んなってホームドラマにするんじゃ

現実には少年はただの中学生(途中からは高校生)で、何のチカラもない1人の少年に過ぎないのだが、だからこそ、少年のセリフは強く胸を打つ。
随所に相当な毒を含んでおり、本書を批評的に読み込むことも可能だろうが、ここは敢えて、広島弁の美しい響きと極限状態の中に垣間見える小さな希望の美しさに、ただただ涙したい。
ちなみに俺は広島生まれだが、「げぼ」という言葉が広島弁だと初めて知った。確かに子どもの頃は「げぼ」って普通に言ってたなあ……(しみじみ)