山本英夫『のぞき屋[文庫版]』5巻

のぞき屋 5 (小学館文庫)

のぞき屋 5 (小学館文庫)

妊婦と夫と助産婦の複雑な浮気関係をのぞくエピソードは、最後は思わぬ展開で終わった。見(ケン)とレイカの不器用な感情と、聴(チョウ)の複雑な感情。良いねえ。
次は、スマイルの彼女をのぞくミニエピソード。依頼ベースではなく「身近な人をのぞきつくす」というエピソードは、本作の中でも異彩を放っている。
本巻のメインは、売れっ子予備校講師・濱中からの「自分の家に仕掛けられている盗聴器を見つけ出してほしい」という依頼を受けるエピソード。この予備校講師は相当の好き者で、自分の教え子とも寝るし、キャバクラやランパブもお手の物、そしてそのことを全く悪びれていない。しかし女癖の悪さが災いして干されていた時期もあり、その時に手を差し伸べてくれたのが、彼が籍を置く中小予備校のオーナーである――という設定だ。この予備校を潰さないために、濱中は給料の高い大手予備校に移ることなく、中小予備校で講師を続ける。しかし受験業界は生き馬の目を抜くような苛烈な世界で、(実際のところは知らないが、少なくとも本作では)脅しによる人気講師の引き抜きも日常茶飯事である。濱中は、大手予備校の引き抜き工作のため、盗聴のプロから攻撃を受けているのである。この盗聴のプロから濱中を守る戦いの過程で、見(ケン)は初めて「のぞく側」から「のぞかれる側」に回る。