細野不二彦『ギャラリーフェイク』11巻

細野不二彦による傑作美術漫画。主人公の藤田玲司(フジタ)は、かつてはニューヨークのメトロポリタン美術館 (MET) の敏腕キュレーターで、卓越した修復技術や豊富な知識から「プロフェッサー(教授)」と称えられるほどの尊敬を集めていたが、元同僚の陰謀によりメトロポリタンを追われ、帰国。現在は、表向きは贋作やレプリカといったニセモノを専門に扱う「ギャラリーフェイク」という画廊(アート・ギャラリー)の経営者だが、裏ではブラックマーケットに通じ、盗品や美術館の横流し品を法外な値で売る悪徳画商という噂であり、その噂は完全に真実である。しかし一方で、メトロポリタン時代から一貫して美に対する真摯な思いを持ち続け、美の奉仕者としての面も持つ――という設定。Q首長国クウェートがモデルの模様)の王族の娘であるヒロインのサラ・ハリファや「美術界のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる三田村館長など、脇役も非常に魅力的である。
この巻には以下のエピソードが収録されている。

ART.1 からくり奇譚(きたん)
ART.2 贋作紳士
ART.3 砂漠の大画廊
ART.4 八点鐘
ART.5 バブル再訪
ART.6 萩焼の心
ART.7 ダディ・ベア
ART.8 伊万里の道(イマリ・ロード)
ART.9 顔のない自画像

個人的には「贋作紳士」が特にお気に入り。真作ではなく、通称「滝川製」と呼ばれる稀代の贋作者・滝川太郎の贋作をあえて集めて回る紳士・三条公彦。彼は真作の持つ緊張感は傲慢であり唯我独尊であると断じ、あえて贋作の持つ「安らぎ」を求める――という確信犯なのである。さしものフジタも彼の毒気に当てられる。しかも彼は自分の人生そのものも「ニセモノ」としてプロデュースしようとする野心家なのである。