藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 2 [定年退食]』

藤子・F・不二雄は、『ドラえもん』や『パーマン』『21エモン』『ウメ星デンカ』『モジャ公』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』といった漫画で知られている漫画家である。藤子・F・不二雄の言う「SF」は「サイエンス・フィクション」の略ではなく、「すこし・不思議」の略である。これらのすこし・不思議な「SF」は、まさにF氏にしか書けない貴重な子供向け作品群だが、一方で大人向けのSF短編集も意外なほど多く発表している。本書は、発表された年代別に藤子・F・不二雄の大人向けSF短編112話を全8巻に完全収録したパーフェクト版である。
シリーズ第2巻には以下の作品が収められている。

休日のガンマン
定年退食
権敷無妾付き
ミラクルマン
ノスタル爺
コロリころげた木の根っ子
間引き
箱舟はいっぱい
アン子 大いに怒る
やすらぎの館
ポストの中の明日
どことなくなんとなく
ボクラ共和国

子どもの頃に読んで特に衝撃を受けたのは「コロリころげた木の根っ子」や「やすらぎの館」だが、これらは改めて読み返しても改めて鋭い着想である。亭主関白というよりは典型的な暴力夫の作家は、何かあるとすぐに(というか何もなくとも)妻をビシバシ殴り蹴飛ばしている。そんな生活が20年も続いているが、妻は甲斐甲斐しく夫の世話を焼いている。そんな妻を夫は心の底では感謝し、愛している。妻も自分の心をきっと分かってくれているから、度重なる暴力にもかかわらず20年も連れ添ってくれているのだ、と夫は編集者に語っている。しかし妻の方は……というアウトライン。これは怖い。「やすらぎの館」は、ストレス社会の新しい「癒しサービス」に通い始める会社社長の話。
表題作「定年退食」は切なくなるなあ。しかし荒唐無稽な話では全然ない。
なお巻末には北村想(劇作家)によるエッセイ「巻末二人芝居 我が名はF」が収録されている。