中村融&山岸真『20世紀SF 1990年代 遺伝子戦争』

20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争 (河出文庫)

20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争 (河出文庫)

『SFが読みたい!』でも紹介されていた年代別のSFアンソロジー。最終巻となるシリーズ第六弾は1990年代。冷戦構造も崩壊し、世界はどんどん複雑化した時代。当然ながら「未来」が見えづらくなり、「未来」に対するリアリティも曖昧になってくる。そのようなとき、スティーヴン・バクスターの作品に見られるように、現代の合わせ鏡としてのSFが「過去の改編」に向かう――という編者の指摘は、実は極めて重要な論点ではないだろうか。
というのも、これは決してSFに限った話ではないからである。2008年現在の日本だって同じことで、この10年来、戦争の正当化だの、あるいはその逆に自虐史観だのといった、歴史に関する問題が何度も何度も立ち上がっている。最近も、元航空幕僚長の田母神俊雄が政府見解に反する論文を公表したことで問題になった。これら諸現象の是非をここで問うつもりはない。言いたいのは、歴史について「したり顔」で語り出す輩が増え始めたら、多くの場合それは社会への不安の象徴として捉えられるのではないか、ということである。
さて、収録作は以下の11篇。

スティーヴン・バクスター「軍用機」
ロバート・J.ソウヤー「爬虫類のごとく…」
アレン・スティール「マジンラ世紀末最終大決戦」
ナンシー・クレス「進化」
ジェフリー・A.ランディス「日の下を歩いて」
グレッグ・イーガン「しあわせの理由」
ウィリアム・ブラウニング・スペンサー「真夜中をダウンロード」
テリー・ビッスン「平ら山を越えて」
ダン・シモンズ「ケンタウルスの死」
イアン・マクドナルド「キリマンジャロへ」
ポール・J.マコーリイ「遺伝子戦争」

んー、どれもさすがに面白い。しかし、やはりグレッグ・イーガン「しあわせの理由」は凄いねえ。人気があるのも頷ける。
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