みうらじゅん『アイデン&ティティ32』

アイデン&ティティ』『マリッジ』に続く、第三部。
音楽で食っていくこととロックであることの矛盾に苦しみながら、愛とは、ロックとは、を問い続ける名作。俺たちは俺たちのロックを届けたいんだという反抗も空しく、会社の方針で、70年代の名曲のカバーをすることになる中島(主人公)たち。そしてそれが思いのほか売れ、かつてのバンドブームと同じような「嫌な予感」にとらわれるのだが、その予感通り、中島やスピードウェイ(中島たちのバンド)は翻弄されていく。
一方、バンドブームが「ロック」のブームでなく「バンド」のブームであったことをいち早く見抜き、ロックに見切りをつけてタレント化した男・岩本は、自分がガンに侵され余命半年であることを知る。そして岩本は中島に本心を語る。岩本秀人という男がこの世にいたことを、歌うことで、伝えたい、と。「天国なんかいけなくていいよ もう一度だけ…デッカイステージに立ちてぇーよ…」と。そしてロックであり続けようとする男とロックに見切りをつけた男が、最初で最後のタッグを組み、ロックに挑戦することになるのである。
涙が止まらん。