綱本将也+ツジトモ『GIANT KILLING』10巻

GIANT KILLING(10) (モーニング KC)

GIANT KILLING(10) (モーニング KC)

イングランド5部のアマチュアクラブを、FAカップでベスト32に導き、プレミアリーグポーツマスをギリギリまで追い詰めた若手監督が、低迷する古巣のクラブ・ETU(East Tokyo United)の監督として舞い戻る――という物語。
川崎戦開始。川崎戦のゲームメーカーは、ボランチの八谷だが、コイツが「生涯最高の監督」であるネルソン監督に出会った瞬間のエピソード、これが良い。この漫画で最も好きなシーンかもしれない。
八谷は元々トップ下なのだが、器用さが災いし、色々なポジションで便利屋的に使われてしまう。結果、成長や活躍の機会に恵まれず、チームを転々とし、さらに便利屋的に使われる……という悪循環に陥ってしまう。不退転の決意で川崎に移籍した八谷は、川崎では絶対トップ下だけをやる、という決意をギラギラさせる。
しかし監督は、練習のミニゲームで「ボランチ」としてプレーすることを要求する。自分はトップ下でこそ活きると信じている八谷は当然ながら反発し、今回の移籍も失敗だったのかと諦めかけてしまう。しかしネルソン監督は、八谷に以下のように話しかける。

<ネルソン監督>
君が……他人より秀でていると思うものは何かいな

<八谷>
あ…えーと

<ネルソン監督>
ちなみに私の場合は…

<八谷>
(あ 自分の話がしたいのね)

<ネルソン監督>
じつは私はね……眼がとてもいいのだよ
(略)
見えるのはね……選手の伸びしろなんだわ


他のチームの選手なんかでもね
この選手はもっと伸びるのに
そう思わせるものがパッと見えたりするんだわ


理屈というよりフィーリングだわな
まあ頭の中で瞬間的に理論立てしてるのかもしれんけど


それでも直感的なことに変わりはない
だからあの時もすぐにピーンと来たんだわ


君という選手に 大きな伸びしろが見えたからよ


君は私とやれば化けるよ ハチヤ


君の秀でてるところはキックの精度とアイデアの豊富さよ
なのに君はゴール前で決定的な仕事をしようとしすぎる


君が活きるのは一列後ろ……
ここで人を使う役割に徹して……
ゲームメイクを存分に楽しんだらいい


ちなみにクラブには
選手の獲得は私の希望に添って行うようにしてもらっている


だから君を欲しいと言ったのはこの私……
つまりは 君がまったくの期待外れならば……
私の首も危ういということになる


君とは運命共同体なのだわ ハチヤ

八谷は天啓に打たれたように固まり、そして想うのである。

<八谷>
今までボール蹴ってきて……
ここまで人に期待されたことがあったか……?


ハンパな結果しか残していない俺を……
こんなにも評価してくれる人はいたか……?


俺は今……
生涯最高の監督に巡り合ったんじゃないのか……?

漫画は文章だけで引用しても、やっぱりピンと来ないなあ。
けれど、漫画で読めばわかるが、本当に良いエピソードなのである。
人との出会いは財産である、ということを(月並みだが)再認識させられた。