日経連能力主義管理研究会『能力主義管理』

能力主義管理―その理論と実践 日経連能力主義管理研究会報告

能力主義管理―その理論と実践 日経連能力主義管理研究会報告

初版は1969年なので、もう40年以上も前の古典。まだ感想をつけていなかったんだな。
小難しい印象と、「しょせんは職能資格制度だろ」というので読んでいない方が多いが、20世紀後半の日本企業の人事には、本書の考え方(と、もちろん楠田丘)が大いに影響を与えており、読まないのは実にもったいない。
それに、単なる歴史的遺産というだけでなく、HRコンサルタントとして読んでも今なお新しい発見が極めて多いことには驚く。例えば、能力評価について「潜在能力ではなく発揮能力を評価せよ」という趣旨の提言がなされているあたりは、大いに注目に価するだろう。40年以上も前に、既にコンピテンシーの考え方が先取りされていたのである。結局HRの考え方や手法なんてほとんど変わっていないんだよな……ということを(俺も含めて)したり顔で言う方も多いが、「感覚じゃなくて、まずこの本を読んでから言え!」と思う。
職能やコンピテンシーの「定義」や「認識」は、人や企業によって大きく異なっているということを踏まえつつ話を先に進めるなら、巷でよく言われた、職能が能力を「固定的」に捉えていて、コンピテンシーが能力を「能動的」に捉えている――という解釈は、浅い理解であると俺は思う。先ほど書いたように、職能が潜在能力で、コンピテンシーが発揮能力という解釈は、もっと誤りである。そもそも潜在している能力を評価するには、どうしたって「顕在化された現象」を基に類推して評価するしかないのである。そんなことは本書で十分すぎるほどに論じられている。
余談的に続けるなら、コンピテンシーを行動特性(あるいは優秀者の行動特性)などと定義づけるあたりは、コンピテンシーコンピテンシーモデルを完全に混同しており、もはや完全に間違っているのではないかと思う。コンピテンシーは(良い意味で)打ち出の小槌でも伝家の宝刀でもない。コンピテンシーとはコンピタンスであり、突き詰めれば単に「能力」なのである。
職能が廃れた理由は、能力概念の固定性ではなく、人事管理の固定性ではないかと俺は考える。職能資格制度で一般に提唱されていた人事管理ツールは、コンピテンシーなどと比べて、はるかにツールのブラッシュアップや運用が大変である。結局、「人を評価する」ということの根本は、もうずーっと変わっていないという点を踏まえて、今こそ本書を読み返すべきである。