本間浩輔+吉澤幸太『1 on 1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』

本書は、本間浩輔『ヤフーの1 on 1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』の続編である。この本はとても良かった。先日も何度目になるかわからないけれど読み返したほどである。本書も、単独では凄く良い本だと思う。しかしわたしは本書を読みながら、2つの感想を持った。

① 続編としての価値

続編として見たときに、スクリプトが生々しいとか、対談がいっぱい載っているとかいうのは良いんだけど、正直わたしの中でのアップデートは少なかった。

前作だけあれば良い気もする。もしくは続編だけ。

② 本書が著者の思惑とは外れて、またキーワード的に消費されていくんだろうなという思い

この本が出された背景は何だろう。いくつかあるようだが、著者は、1on1というものがキーワード的・表層的に消費されていることとそれへの危機感を何度か穏当に指摘していた。わたしも同感である。日本の人事部は本当に保守的で、自社に本当にマッチした変革への取り組みをオリジナルで始める会社は少ないものの、一方で自分たちが古臭い存在だと思われるのは嫌で常にアンテナは張っており、ある一定の閾値を超えると、雪崩のように新しいキーワードに飛びつく(その意味ではビジネス書や人事労務系の出版社も同罪だ)。細かなキーワードはそれこそ雨後の筍のように出ては消えているのだが、人材育成の観点では、15〜20年前はコーチングというキーワードが山盛り、そのあとはファシリテーションが花盛り、NLP(神経言語プログラミング)というのもあったな。そして今は1on1である。

どれも同じだろう。(注:違うことはわかっていて敢えて言っています)

繰り返す。同じなのだ。

人事マネジメントというのはそれこそ、メンバーシップ型マネジメント、新卒一括採用、総合職採用とローテーション、年功序列、消えつつあるが企業別労働組合、定年制と年金制度といった日本の特徴に、世代ごとの価値観、労働法などが複雑に絡み合って、総体としての人事システムが構築され、バランスしているのである。これまでコーチングだのファシリテーションだの対話だの成果主義だのコンピテンシーだの抜擢制度だの専門職制度だのを表層的に取り入れても上手く行かなかった。それなのに、またぞろ1on1というキーワードを表層的に取り入れようとしているように見える。上手く行くはずがない。

著者がやろうとしていることは、OD(組織開発)である。企業全体の人と組織・学び・階層のあり方をエコシステムとして変えようという話だ。

そこに取り組む覚悟のない人事部や中間管理職が何となく感化されても、まあ有害とは言わないが大した変革エネルギーは生まれない。うねりが出ないのだ。企業は変わらないだろう。