鈴木J.貴博『ニュータイプス』

ニュータイプス―他社を動かし、ビッグビジネスを実現する人々

ニュータイプス―他社を動かし、ビッグビジネスを実現する人々

「自社」「部下」を掌握し、思い通りに動かす人々は今や社内に溢れている。しかし過去10年で、日本が得意としていた垂直統合型の企業集団モデルは崩れ、否応なくグローバルな水平分業型の事業モデルにシフトせざるを得なくなっている。水平分業型の事業環境下においては「他社」を動かす必要があるが、そのためにはこれまで優秀とされていたオールドタイプの管理職とは異なる動き方が求められる。そこで、そうしたニュータイプのビジネススキルを持っている人々(主にビジネスパーソンだが、そうでない人もいる)を取り上げ、インタビューの抜粋を分析しながら今後のビジネスシーンで求められるニュータイプのビジネススキルを解説する――という内容であろうか。
本書で取り上げられたオールドタイプとニュータイプのビジネススキルはそれぞれ7つである。

  1. old 自分の部下を人事考課している
    • new 他社の社員を人事考課している
  2. old 自部署の事業計画書を策定している
    • new 他社の事業計画書を構想している
  3. old 部下や他部署への説明能力に優れる
    • new 才能の高い人への説明能力に優れる
  4. old 事業ビジョンを真摯に語る
    • new ビジョンをエンタメで語る
  5. old 恐怖で部下を動かす
    • new 畏怖で部下を動かす
  6. old 調整の数をこなす
    • new 交渉の数をこなす
  7. old 限りある資源を適正に配分する
    • new 足りない資源をそこらじゅうから持ってくる

それぞれ難易度は高いが、必ずしも7つのニュータイプのビジネススキルを全て身につける必要はないそうだ。全て身についているスーパーマンなど世の中にほとんど存在しないし、そうしたビジネススキルを持っている人を上手く活用するのも、水平分業型の事業環境下における重要テーマであろう。また、ニュータイプのビジネススキルの中には、オールドタイプのビジネススキルを少し転換することで発揮可能なものもある。その意味では、ニュータイプのビジネススキルは決して一部の天才だけが発揮可能な雲の上の特殊技能というわけではない。
ニュータイプビジネスパーソンの話や著者の分析がとにかく面白く、どれも「なるほど」と頷けたが、特に首肯したのは「畏怖で部下を動かす」という項目である。たまたま俺は、社会人として働く中で、数は少ないながらも「オーラ」としか呼びようがない独特の雰囲気を携えた方がいることに関心を持っていた。それは決して恐怖とは違う。決して脅しはしないし、声を荒らげもしないし、失敗者に過酷すぎる罰を与えるわけでもない。しかしピンと張り詰めた空気を持ち、その人が部屋に入るだけで思わず襟を正してしまう――そうした迫力を持った方に(社内外で)出会うことがある。それを俺は「オーラ」と形容していたが、なるほど「畏怖」というのは、より的確な形容であろう。
恐怖と畏怖は何が違うのか? もちろん多くの点が異なるのだが、本書の建て付けに従うなら、恐怖は自社の部下しか動かせないが、畏怖は他社をも動かすことができるということである。

余談

著者は、俺が今、最も楽しみにしているビジネス書の書き手である。ただし本書では著者名がなぜか「鈴木J.貴博」という表記だったので、発売情報を知るのが遅れてしまった。いつも通り「鈴木貴博」で良いんじゃないでしょうか?