宮崎駿『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

書名の通り、岩波少年文庫について楽しげに語っている下りがボリューム的には一番多い。けれど1冊の本としての主題はそれではないと思う。やはり……と言って良いものかわからないけれど、これは「震災後」の世界、もっと言うならば「震災後」の世界を逃げずに引き受けていかねばならない10代・20代の少年や若者たちに向けたメッセージである。
風が吹いてきたと宮崎駿は言う。そしてその風は、決して優しい風でも心地よい風でもない。毒を孕んだ強く厳しい風だと。残念ながら宮崎駿の言う通りなのだろう。そうした風の中を進んでいくとき、人間や世界の厳しい真実だけを厳然と暴露し、突きつける高潔な文学作品だけでは、人はすり減っていくばかりである。人間を肯定し、世界を肯定し、あたたかい心を肯定し、やり直しを肯定する。そうした本が児童文学であり、子供はもちろんのこと、大人にとっても児童文学の重要性は増しつつある……かなり俺の言葉で意訳したが、宮崎駿が言いたいのは、こういうことだろうと思う。
宮崎駿が言っている児童文学の役割は、おそらく今、『ドラえもん』や『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』や『ドラゴンボール』といった国民的な漫画・アニメーションが担っているのだろうな。そしてもちろんスタジオジブリの作品はその代表格である。