波頭亮『経営戦略論入門』

マッキンゼーの一流戦略コンサルタントが経営戦略論を整理してくれた本。戦コンらしい鮮やかな手並みで大変わかりやすいと思う。しかしちょっと損をしているというか、マーケティング的には完全に読み違えている本かなと思う。
半年ちょっと前に入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という経営学の最先端の理論を紹介した本がブームになって、4月に本書が発売されているのだが、ちょうど本書と同じ頃、三谷宏治『経営戦略全史』が発売されている。ほぼ同じ時期に発売されたにもかかわらず、『経営戦略全史』は大絶賛の嵐でAmazonのレビューも凄いことになっている(実は波頭亮の本もそれなりに高い評価を受けているが、もうレビューの数が違い過ぎる)。
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア  経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
全く無名の駆け出し研究者が書いた、しかも知る人ぞ知る優秀な会社ではあるけれどダイヤモンドや日経ほどの営業マンパワーは割けないと思われる英治出版が出した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という本が売れたのは、コトラーにポーターにブルーオーシャンイノベーションのジレンマといった、耳にタコができた経営戦略の表面的なエッセンスをすくった経営戦略の入門書では満足できなかった読者が相当数存在してきたという証明である。この「現象」を受けて、またぞろありがちなアプローチの本を新書でPHP研究所と、わずか100年ばかりの経営戦略論を400ページ以上かけて網羅的に整理したデカくて分厚い単行本を出したディスカヴァー社では、少なくともこの2冊に限っては残念ながら企画力が雲泥の差と言って過言ではないと思う。
誤解してほしくないのは、最初に述べたように、本書はかなり良い本だと俺は思っているということだ。しかし本書ならではのウリは「著者が波頭亮である」ということしか思いつかないため、このままだと完全に類書に埋もれ、2年もすれば、新書ファンと波頭ファン以外は手に取らなくなるだろう。