東京工業大学リベラルアーツセンター篇『池上彰の教養のススメ』

池上彰はけっこう好きだが、マスコミが「困ったら池上彰」の態度を鮮明にして「池上彰におんぶにだっこ」な番組作りをしているのを目の当たりすると、あまり良い気はしない。書籍も同様で、面白そうな本を出しているなあと思うことはあるが、とにかく「池上彰」という文字をどれだけデカデカと表紙に書けるかだけを競っているように見えるので、これまで池上彰の本を読んだことはなかった。*1
だから本書も、電車の中での暇潰しというつもりでさしたる期待もせずに購入したのだが、思った以上に面白かった。本書は、実学志向に偏った現在の大学教育に対して、教養(リベラルアーツ)こそが新しいものを生み、仕事や人生を豊かにしていくのだという強烈な主張に基づいて編集された対談集である。特に哲学者である桑子敏雄が、そのバックグラウンドを活かしながらダム問題や河川工事といった公共事業に係る役所と地域住民の合意形成に携わっているエピソードには、大きく衝撃を受けた。確かにこれは、「正しさ」「ロジック」「プレゼン力」といったことだけでは解決できない問題であり、それを解決するには人格の力……つまり教養が必要になると思う。じいさんしか出てこない本だが、刺激は強い。

*1:ブログを検索したところ、10年前に池上彰がインタビュアーを務めたNHK番組の書籍版は読んだことがあった。しかし当時はあくまでもNHKのキャスターであったし、池上彰の本というわけでもなかった。