山田詠美『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)

山田詠美は私が読書を本格的に嗜むようになった最初期に、宮本輝や村上春樹・村上龍などと一緒に合わせて読んでいた作家である。もう15年以上読んでいなかったが、久々に山田詠美の代表作を読んでみたい……と思って調べたところ、代表作がほとんどKindleで発売されていない! 私が読み返したいと思っていたのは『ぼくは勉強ができない』『放課後の音符(キイノート)』『蝶々の纏足・風葬の教室』『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』の4冊なのだが、本書を除く3冊は電子書籍版がない。未読だが読んでみたいと思っていた『風味絶佳』も電子書籍版がない。
何だかなぁ。
確かに文庫本のジャケットは本の内容にマッチしていて私もそれなりに好きだけど、アラサーを飛び越えてアラフォーに突入せんとするおっさんが山田詠美の青春小説を自宅に何冊も飾っておきたいとは思わない。
何だかなぁ。
さて、内容は、コミュニケーションに自覚的で、男漁りと自分磨きを生き甲斐とする女が山ほど出てきて、黒人はいつでも格好良い。久々に読んでも早速食傷気味なのだが、「PRECIOUS PRESIOUS」という短編だけは、いま読み返しても相変わらず良い。これは「変わり者」の烙印を押されて友達もほとんどいない、けどごく普通の高校生であるバリーが、好きになった女の子のために一世一代の芝居を打つ物語である。彼女のジャケットに自分の電話番号を忍ばせ、電話がかかってきた彼女に対して、自分があたかもクールでセクシーな、大人びた男だと「ぶった」のである。そしてプロム(卒業パーティー)での約束を取り付ける。けれど、もちろん嘘である。酒なんて飲んだこともない。タイの結び方だって知らない。もちろんスーツだって。バリーは途方に暮れるが、彼は結局、精一杯背伸びをして、プロムに行くことにするのだが、背伸びをした結果、それに見合う「悪くない顔」を手に入れることができる。勇気ある一歩を踏み出せるか否かで、人生はちょっとずつ色合いを変えていくことができるという
話で、青少年もおっさんも爺さんも胸に秘めるべきストーリーだ。

余談

表紙は、幻冬社文庫よりも角川文庫の方が良いなあ。思い出補正もあるかもしれんけど。
ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー (角川文庫)