谷崎潤一郎『陰翳礼讃』

陰翳礼讃 (中公文庫)

陰翳礼讃 (中公文庫)

日本と西洋との本質的な相違を見つめて「陰翳」に日本的なるものの本質を見ようとした傑作。もちろん今のわたしたちの生活とは異なる部分も多いけれど、それでもやはり「確かに」と頷かざるを得ないのは、わたしに日本的文化の素養が否応なくまとわりついているからだと言って良い。

本書を読んでいて思うのは描写の卓越ぶりだ。例えば「ようかん」ひとつを取っても、

人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。

……と、谷崎にかかればこうなる。「言語が概念を規定する」と言ったのは誰だっただろうか、鳥肌の立つようなこの表現は「ようかん」の新たな世界を見せてくれる。いつかはわたしも言葉の力を極限まで引き出してみたいものだ。