デービッド・アトキンソン『新・所得倍増論』

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

日本は戦後、驚異的な優秀さと勤勉さから来る生産性を武器に、他国も驚くスピードで復興・成長して世界第2位の経済大国の地位を手に入れた。まあバブル崩壊以後の「失われた20年」と10億人国家・中国の台頭により、日本のGDPは世界第3位に後退したものの、依然として世界を代表する経済大国として君臨している……というのが、戦後の日本経済に対する大方の見立てであろう。それに対して、著者は明確に否を唱える。

日本が発展してきたのは、日本人が優秀だったからでも勤勉だったからでもなく、単に人口が多い国であったからである。また戦後日本の驚異的な復興・成長を支えたのは、生産性ではなく、単にベビーブームによる人口増加の恩恵と、円ドルの為替の恩恵である……一言で書くと、著者の主張は「人口」と「為替」に集約される。

なかなか衝撃的な展開だが、正直、日本人の労働生産性が高いというのは(生産性の定義にもよるが)どうにも嘘くさいし、あながち間違ったことは言っていないだろうと思った。

しかし人口と為替に完全に集約してしまうと、別に過去の日本を美化するつもりは全然ないのだが、果たしてそれだけなのかという思いもある。人口が増えて貨幣価値が強くなる国はアジア・アフリカを中心に多くあるわけだが、全てが日本のように経済大国の仲間入りをしているわけではないからだ。まあ時間とともにいずれはそうなるのかもしれないし、別に日本人だからと言って日本の過去を特別視するつもりはない。