- 作者: 落合陽一
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/01/31
- メディア: 単行本
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あ、読了した感想を一言で書くと「第4章を読め!」に尽きる。時間のない人はそこだけでもわたしの感想を読んで、ぜひ本を手に取ってほしい。
はじめに
「はじめに」で書かれた本書の内容をわたしなりに端的にまとめると、以下のようになるだろうか。
- かつての日本の高度経済成長は「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」の3点セットで作り出されたものである。
- かつては良い戦略だった上記3点セットだが、今は上記戦略の機能不全が日本人一人当たりの生産性の低下・隠蔽体質・炎上気質・パワハラ・いじめ・残業など多くの問題を引き起こしている。
- 新たな価値を生み出すシステムを作り直す(日本を再興する)には、各分野の戦略ひとつずつ変えるのではなく、各分野の戦略を密接に結びつけた全体パッケージとして変えることが重要である。
- 著者の知見・経験を元に、「企業経営」と「メディア・アート」と「大学での活動(教育・経営・大学経営)」という3つの軸で日本を再興する戦略を本書で提言する。
本書の深刻なマイナスポイントは、「はじめに」で説明された上記の内容と「本編」の繋がりが非常にわかりづらいことである。「はじめに」で書いた著者の戦略に基づいて章立てを構成するか、各章をその観点でまとめてくれよと思うのだが、正直そうなっていない。実にNewsPicsらしいというか、とりあえず売れそうな流れやキーワードを散りばめて本を構成してみましたという感じで、話があっちこっちに飛んでしまう。それでも著者が「はじめに」で書いた、「企業経営」と「メディア・アート」と「大学での活動(教育・経営・大学経営)」という3つの軸を常に念頭に置けば、語彙や文体は平易なので迷子にはならないかなと思うのだが、Amazonレビューを見ると、1章や2章で嫌になって読むのを投げ出した方もけっこう多い。まあ気持ちはわかる。
第1章:欧米とは何か
欧米という概念は存在しない(日本しか持っておらず)、アメリカ・イギリス・フランス等国単位で、かつ時代を限定して語るべしという点に尽きる。それはなるほどと思うわけだが、著者自身が「ヨーロッパは…」とか書いており、非常に脇が甘いというか何というか。あと、冗長なのと、第2章と論旨が被っている気がする。NewsPicsの編集者は仕事してください。
第2章:日本とは何か
日本はカースト制度が向いているとか、士農工商は良かったじゃないかとか、非常に乱暴なキーワードが並んでおり、ううむとしか言いようがない。
フォローすると、著者がカースト制度と言っているのは生まれながらの身分差別でも何でもなく、欧米流(と書いちゃうけど)を中途半端に取り入れるから自分探しみたいな悪習がはびこるとか、ホワイトカラー偏重でものづくりへのリスペクトが足りないとか、農を狭義の農家ではなく広義の自営業と捉えて他動的に活動してもらうべき(大企業偏重の時代は終わった)とか、マスメディアが生み出した拝金主義は実に下品で悪質だとか、個別の主張を掘り下げると個人的には首肯することが多い。しかし伝え方が、言葉の使い方も本書全体の構成も下手というか。この辺、実にNewsPics的というか、炎上含めた売れるストーリーを作って結果的に売れれば良いんだというNewsPics的なアプローチに非常に抵抗がある。
第3章:テクノロジーは世界をどう変えるか
落合陽一のいつもの話が載っているだけで新規性ゼロ。というか繰り返しになるのだが、第1章から第3章が、さっき「はじめに」で書いた「企業経営」と「メディア・アート」と「大学での活動(教育・経営・大学経営)」と全く繋がってこないんだよね。
第4章:日本再興のグランドデザイン
この章は個人的に非常に良い気づきがあった。正直、4章の冒頭は必読と言って良い。簡単に書くと、日本を襲う人口減少と少子高齢化は日本にとって大チャンスだということなのだが、簡単に引用しておきたい。なお、強調(太字・黄色のハイライト)は著者ではなく、わたしが引いたものである。
人口減少と少子高齢化。日本ではこの2つの言葉が、ネガティブなトーンで語られます。このまま日本は人口が減り続けて、経済も縮小し続けて、暗い未来が待っているのではないかと――。
僕からすると、この認識自体が間違いです。人口減少と少子高齢化はこれからの日本にとって大チャンスなのです。その理由は3つあります。
一つ目は自由化、省人化に対する「打ち壊し運動」が起きないことです。人が減って、かつ高齢化で働ける人が減るので、仕事を機械化してもネガティブな圧力がかかりにくい。産業革命のときに労働者が機械を破壊したようなラッダイト運動が起こらないのです。
今後の日本にとって、機械はむしろ社会正義です。機械化に取り組んでいる人をおとしめようとしている人間がいたら、その人こそ労働力不足社会における正義に反しています。
二つ目は、「輸出戦略」です。
日本は、人口減少・高齢化が早く進む分、高齢化社会に向けた新しい実験をやりやすい立場にあります。これから中国を筆頭に世界中が高齢化します。もし日本が、人口減少と少子高齢化へのソリューションを生み出すことができれば、それは“最強の輸出戦略”になるのです。
ロボット技術が典型ですが、日本の少子高齢化対策技術は、アジア諸国に輸出することができます。以前の日本は、欧州や米国などで生まれたビジネスを時間差で日本に輸入する「タイムマシンビジネス」が主流でしたが、今後は日本で生まれたビジネスを海外に輸出する「逆タイムマシンビジネス」が可能になるのです。
少子高齢化対策技術は、輸出の切り札になるだけでなく、インバウンドの人材誘致戦略としても力を発揮するでしょう。たとえば、軽井沢をさらに少子高齢化時代に向けてバージョンアップすれば、「軽井沢に住みたい」という中国のお金持ちが続々と出てくるはずです。
三つ目は、「教育投資」です。
これからの日本は、人材の教育コストを多くかけることができる国になります。なぜなら、日本は人口が減少しているので、相対的に大人の数が多くなり、子どもの数が少なくなるためです。(略)
この3つの視点を持てば、人口減少と少子高齢化は明らかにチャンスになります。
社会システムの中で、少子高齢化と人口減少についてはテクノロジーで対処していくことができるので、何の問題もありません。むしろ、人口増加のほうが大変です。人が増えている状況で機械化を進めていったら「打ち壊し運動」が始まります。我々は人口減少を嘆くどころか、「運よく減少してくれてありがとう」と感謝すべきなのです。
この視点はなかったし、勇気づけられた気もする。
わたしは人口減少を過度に憂いていたわけではなかったが、正直、チャンスだとは全く考えていなかった。わたしが漠然とイメージしていた今後の世界経済は、国土が広くて人口増加を許容できる環境があり、国内に資源があり、かつ金を集める仕組み(アメリカのシリコンバレーや中国の深セン)もある、すなわち労働集約・資源集約・資本集約の全てが可能なアメリカと中国の2強となり、安く豊富な労働を持つインド・東南アジア諸国・南米諸国・アフリカ諸国が時間差で支えていくモデルになるんだろうなと思っていた。そもそも日本が提供できるバリューというのは今後は海外で代替できるものばかりになり、世界経済において日本の入り込む余地はないだろうなとも。もちろん一朝一夕に沈むことはないけれど、緩やかに衰退し、ヨーロッパ中位の国みたいなイメージになるのかなーと。しかし、常識論に凝り固まっていると良くないね。確かに労働力が豊富だということは、労働力の機械化に対する抵抗が大きいということでもある。
ただ日本という国は、マスメディアを見ても、はてなーのコメントを見ても、本当に保守的(右寄りという意味ではない、むしろお気持ちリベラル、もしくは衆愚主義と言いたい)かつ他責の民族性なので、変化に対応できず、このチャンスを逃してしまう可能性もかなり高い気がする。
日本をこの流れに乗せていきたいと思うし、この流れに自分も乗っていきたいとも思う。そのために、わたしは何をすれば良いかな。キャリアの長期ビジョンが見えた気がする。
第5章以降
えーと、第5章以降? 個別に面白いトピックはあったものの、結局第4章に包含される話かな。NewsPicsの編集者もっと仕事してください。
*1:落合陽一は、記載内容の重複がけっこう多い。どの本を読んでもまるで金太郎飴のように「これ読むの3回目だよ」みたいなことが多く、個人的には非常にマイナスポイントである。正直、また別の本でも同じこと書くだろうから今この本を敢えて買う必要はないな、と思ってしまう。