中野剛志『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』

  • デフレとは需要不足/供給過剰により引き起こされる、物価が下がり続ける=貨幣価値が上がり続ける現象である。デフレ下では先行きに不安を覚え、仮に浮いたお金があっても消費・投資に回さず貯蓄に回すため、経済は成長しなくなる。
  • デフレ下で、個人や企業が消費や投資を手控えて貯蓄に励むのは、経済合理的な行動である。したがってデフレを脱却するには、財政支出拡大・金融緩和・減税などによる需要喚起を政府が責任を持って行うことが必要である。
  • 平成の日本経済が成長しなくなった最大の理由はデフレであり、デフレを脱却できないのは、日本政府がデフレ下においてデフレ対策を行わず、インフレ対策(財政支出削減・消費増税・規制緩和・自由化・民営化・グローバル化など)を行ってきたからである。

上記は、本書の前半(第1章〜第3章あたり)で書かれていた主張である。

わたしも何となく規制緩和・民営化・グローバル化などは盲目的に信じてきたところもあるので、これまでの常識・感覚とは異なる説明である。しかし、いざ体系的に説明されると、100%とは言わないでもスッキリ来るところもある。

著者の言う通り、企業経営と国家運営を同列に考えるから上手く行かないところが出てくるのであって、国家は通貨を発行できるのだから、企業と国家を同一視してはならないということなのだろう。

さて、ここで「貨幣」と書いたが、これまで名だたる経済学者や政治家や官僚が上記のような当然の(と著者が考えている)事柄を見抜けず、デフレ下でインフレ対策に邁進してきたかと言えば、貨幣に対する本質的な理解が足りていないからで、主流派経済学には貨幣の正しい理解を織り込んでいないそうである。

後半では、正しい貨幣理解を織り込んだ「現代貨幣理論(MMT)」を概観するとともに、間違った施策を実行し続けてきた主流派経済学者や日銀などを批判する……と、このような構成である。

まずはデフレを脱却する必要があるし、著者の説明を聞くうちに、デフレ下を想定した経済理論というのは少なかったのだろうなと思った。保護主義と聞くと、悪いもの・古いものという感覚がパッと頭に浮かぶが、著者の言う通り、デフレ脱却には重要な視点であろうと感じた。