角野栄子『新装版 魔女の宅急便 (5)魔法のとまり木』

新装版 魔女の宅急便 (5)魔法のとまり木 (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 (5)魔法のとまり木 (角川文庫)

泣く子も黙るジブリ映画の原作小説、全6巻のうちの第5巻。

第5巻では、キキはもう19歳だの20歳だのになっていて、最初のドタバタ劇とは全く違う成長を見せてくれている。でも19歳や20歳で自分の仕事を持って、自分の顧客を持って、街で自分の立場を確立しているというのは凄いことだ。それでも、自分の将来への不安、トンボとのこと、後輩の魔女、色々なことを考えながら日々を暮らしていく。ジジがヌヌという雌猫と仲良くなり、猫社会にコミットするあまりキキとの言葉を忘れていくというエピソードは、映画版の『魔女の宅急便』への返歌とも本歌取りとも取れて、実に趣深い。

3巻や4巻を読んでいるあたりから何となく感じていたのだが、この作品の魅力のひとつ、それは自分自身のマイナスの感情から目を背けないことだ。わたしの勝手な印象だが、児童文学や児童向けの伝記は得てして「前向きな感情」が優先で、フィーチャーされるマイナスの感情はせいぜい寂しさや軽い恐怖程度ではないだろうか。少なくともわたしの経験に照らせば、他人への嫉妬だとか生きることへの不安を描いたものは、あまり読んだ記憶がない。

さて、もうひとつ書きたい。以降ネタバレ。

5巻の最後では、わりに驚くべき描写がある。

キキとトンボの恋が成就し、2人が結婚するのである。

ジュブナイルのラストが結婚だのと言うとフェミニズムの人たちは文句を言うかもしれないが、これはキキという少女が魔女という生き方を選んだ物語だ。魔女には、魔女という不思議な存在があるということを皆に知ってもらうという役割がある。そして魔女になるには魔女という「血」が不可欠なのである(この世界観においては)。既に本作は、いたいけな子供が成長するというジュブナイルを超え、人生の物語になっている。魔女という存在が、普通の人々に受け入れられ、市井に根を下ろす。素晴らしいと思う。こういう結論があってもおかしくないし、むしろ然るべき結実だとも思う。

余談

Kindleでは全6冊合本版もある。

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)