角野栄子『新装版 魔女の宅急便 (6)それぞれの旅立ち』

新装版 魔女の宅急便 (6)それぞれの旅立ち (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 (6)それぞれの旅立ち (角川文庫)

泣く子も黙るジブリ映画の原作小説、全6巻のうちの遂に最終巻。

第6巻では、キキとトンボは既に結婚し、大人になっている。計算上では、キキは30代前半から半ばだ。うん、もう大人だね。

成長の物語の担い手は、キキの双子の子供、二二(娘)とトト(息子)に受け継がれる。

二二は、おしゃれが好きで、気まぐれで、飽きっぽい、今時の女の子である。魔女を目指さなければならないという気持ちもありつつ、まだ子供なのに自分の人生を決めたくないという気持ちもある。

一方トトは、空を飛べる魔女に憧れているが、男の自分が魔女になることはできないことも知っている。でも魔女になれるかどうかが「血」で決まるなら、男の自分にもチャンスがあって良いだろうと思っている。

実はわたしは、一見するとエピローグ的な、余談的なエピソードである、第6巻が最も心に響いた。もちろん1〜5巻も響いたのだが、第6巻は特別に響いたのである。

二二とトトの悩みが、より現代的だからかもしれない。

二二は、封建的・伝統的な親の価値観を受け継ぐことへの抵抗感。トトは、なりたいものになれない時の、自分探しへの模索。

キキは、映画版でもご存知の通り、魔女になること自体にそれほど深い悩みは示していない。尊敬するお母さんが魔女で、自分も魔女になるんだと、「何となく」で決めた未来。もちろんその後キキはしっかり苦労をしているのだが、自分とは何か、自分が何になりたいかに悩んだのは、魔女としての生き方を決めた「その後」なのだ。

第6巻が単なるエピローグだと思ったら大間違いである。世界は輪廻ではない、螺旋なのだ。似ているようで、少しずつ違う未来。誰かの苦悩は、その誰かのものでしかない。素晴らしい結末であり、新たな物語の始まりだと思う。

余談

Kindleでは全6冊合本版もある。

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)