村上春樹+柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう』

本当の翻訳の話をしよう

本当の翻訳の話をしよう

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 単行本
柴田元幸が責任編集を務める『MONKEY』という雑誌での対談がメイン。

この2人のタッグも既に35年とのことで、これまで何度もタッグを組んで一緒に仕事をしたり、『翻訳夜話』『翻訳夜話2』といった対談集も出している。そのため、「村上春樹にとって翻訳とは」といった話題は読者も既に周知の事実として、比較的ディープな対談が行われている。特に、絶版になった翻訳文学について語っている下りなどは、全く読んだことのない作家・作品ばかりで話についていけず、「楽しそうに話しているな」ぐらいの感想しか正直持てなかった。

それでも、サリンジャー・フィッツジェラルド・カポーティなどの作品の一説を取り上げ、2人で別個に訳してお互いの翻訳の違いを語り合う下りなどは、非常に興味深かった。

例えば、柴田元幸は学者でもあり、翻訳者プロパーでもあることから、翻訳はわりにきっちりするタイプである。一方、村上春樹は、かなり正確さを重視するタイプではあるものの、やはり小説家ということもあって、全体の流れを重視する。そうすると、①一旦翻訳した後、②原文を見ずに訳文の硬いところを修正して、③その後もう一度訳文と突き合わせる……というステップを踏む中での②をどうしてもしっかりやるので、文章がこなれている一方、長くなる。この辺の違いは顕著である。

また、柴田元幸の「手クセ」のようなものも出ていて、柴田元幸はダッシュ(――)をすぐ使ってしまうそうだ。ただ、原文にダッシュがないのに訳文で使っていて、村上春樹に「柴田さんの訳で、ダッシュは必要だったんですか」と問われている。また、柴田元幸は体言止めが好きですぐ使ってしまうなんてエピソードもあり、この辺はけっこう面白かったかな。正確にと言っても、機械で翻訳しているわけではないので、翻訳者による癖が出たり、また現状機械では対応できない細かなチューニングを施しているということでもある。