1年間の振り返りとして、2007年に読んだ本の中から特に印象深かったものを取り上げてみたい。今年は大して面白い本に出会っていないんじゃないかと思っていたが、改めて振り返ると、けっこう多くの超絶本と出会っていた。あまり多く挙げても仕方ないので、最終的には、面白さに加えて思い入れの強い本を選んだ。
ジョン・ウッド『マイクロソフトでは出会えなかった天職』
「俺が今すぐ仕事を辞めてNPOに身を投じるか」と問われたら、全然そんなことはない。しかし俺は著者の熱意に心から感動したし、敬意を払った。情熱は人を動かし、世界を動かし、そして自分自身をどこまでも動かす。古今東西このシンプルな原則は変わらないのである。本書は2007年屈指の本ではないだろうか。
梅田望夫『ウェブ時代をゆく いかに働き、いかに学ぶか』
本書ほどブログなどで話題になった本も珍しいのではないだろうか。梅田望夫は「ネットに対してオプティミズムを貫く」という決意にも似たスタンスを敢えて堅持している。そのスタンスに対しては賛否両論あるようだが、「学習の高速道路と大渋滞」「けものみち」「ロールモデル思考法」といった概念は圧倒的に興味深く、また考えさせられるものであった。また梅田望夫の興味深いところは、自分の本に関するブログの感想を全て読んでいることである。俺のブログの感想もチェックしていたくらいだから、相当である。ネットに詳しいこともあり、梅田望夫は自身が取締役を勤めるはてなでブログ(「My Life Between Silicon Valley and Japan」)を開設しているが、かなり面白いので、未見の方はぜひチェックすることをオススメする。
ポール・オースター『ミスター・ヴァーティゴ』
魂が深いところで本書と共振した。個人的には2007年に読んだ小説の中で最も良かった。ウォルト・ザ・ワンダーボーイの人生と真剣に向き合ってなお何の感情も感じない人は、一体どのような人なのだろう? 想像もつかないな。
村上春樹『走るときについて語るときに僕の語ること』、水道橋博士『博士の異常な健康』
村上春樹も水道橋博士も、どちらも相当な変わり者のトレーニングマニアである。しかしエキセントリックな生き様は格好良いと俺は心底思うのである。突き抜けることの愉楽。まあエキセントリックを理解できる人も理解したい人も少ないと思うけれど、この感覚を「学習」したいと言うような“エキセントリック”な人がもしいれば、御大・荒俣宏の『奇人は世界を制す エキセントリック』を読んでみては如何だろうか? もちろんアラマタそのものを観察するのも十分な奇人研究になり得る。
J.D.サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、村上春樹+柴田元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』、スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』『愛蔵版 グレート・ギャツビー』
村上春樹は、小説家の中でも屈指の翻訳量を誇るが、この何年かは特に印象的な仕事を残している。何しろ『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を訳して、『グレート・ギャツビー』を訳して、『ロング・グッドバイ』を訳して、村上春樹翻訳ライブラリーを出し始めて過去の翻訳に手を入れているのだ。『キャッチャー』と『ギャツビー』と『グッドバイ』はどれも村上春樹が敬愛してやまない小説で、『ギャツビー』と『グッドバイ』は小説のベスト3の中に入るとまで言っているほどだし、丸々『キャッチャー』について語り尽くす『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』を出した。特に『ギャツビー』を数十年も前からチカラをつけて翻訳したいと村上春樹が思っていたのは、ファンなら有名な話である。残念ながら『グッドバイ』は未読だが、そこまで思い入れのある本であるため、これらの本の中には慈しみが溢れている。村上春樹はとにかく目立つので、本書についても翻訳が良いの悪いのと毀誉褒貶が激しいが、俺は好きだな。
ピープルフォーカスコンサルティング『組織開発ハンドブック』、中原淳 編著+荒木淳子+北村士朗+長岡健+橋本諭『企業内人材育成入門』、川上真史+齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』
HRから3冊。これら3冊は仕事を進める上で非常に考えさせられたし、何回読み返しても個人的には新たな発見があるので、何回でも手に取っている。超良書。みんな読むな!(反語)
佐藤郁哉『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』
最後にフィールドワークの本をセレクト。といっても、本書は太平洋の島々を訪れる人類学的なフィールドワークではなく、現代の企業組織や広い意味での経営現象を理解していくために「フィールドワーク」という調査方法を用いることの意味合いや可能性について記している点で、かなり意義深い本であると個人的には思っている。本書で紹介されているブラウォイの同意理論も興味深い。