中村尚樹『最先端の研究者に聞く 日本一わかりやすい2050の未来技術』

ジャーナリストによる未来予測本だと思って買ったのだが、類書と違うのは、単なる未来予測と言うよりは、内閣府が、内閣総理大臣を議長とする「総合科学技術・イノベーション会議」を開催して公表した「ムーンショット目標」に準拠したものであることだ。その9つの目標の概要は以下のとおりである。漢数字を数字に変えたり、改行を加えたり、各目標に設定された議長的な教授の名前を割愛したりするなど、適宜変更を加えている。

<目標1>
2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
ターゲット:複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。
サイバネティック・アバター生活:望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる。

<目標2>
2050年までに超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目指す社会:従来のアプローチで治療方法が見いだせていない疾患に対し、新しい発想の予測・予防方法を創出し、慢性疾患等を予防できる社会を実現する。

<目標3>
2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
ターゲット:人が違和感を持たない、人と同等以上な身体能力を持ち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する。

<目標4>
2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
ターゲット:地球環境再生のために、持続可能な資源循環の実現による、地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指す。

<目標5>
2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
ターゲット:微生物や昆虫等の生物機能をフル活用し、完全資源循環型の食糧生産システムを開発する。

<目標6>
2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピューターを実現
ターゲット:大規模化を達成し、誤り耐性型汎用量子コンピューターを実現する

<目標7>
2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
目指す社会:日々の生活のあらゆる導線に、健康に導くような仕掛けが埋め込まれている。住む場所に関わらず、また災害・緊急時でも、必要十分な医療・介護にアクセスできる。心身機能が衰え、ライフステージにおける様々な変化に直面しても、技術や社会インフラによりエンパワーされ、不調に陥らず、一人ひとりの「できる」が引き出される。

<目標8>
2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
目指す社会:台風や豪雨の高精度予測と能動的な操作を行うことで極端風水害の被害を大幅に減らし、台風や豪雨による災害の脅威から解放された安全安心な社会を実現する。

<目標9>
2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
目指す社会:過度に続く不安・攻撃性を和らげることが可能になる。人生に生きがいを感じ、他者と感動・感情を共有し、様々なことに躍動的にチャレンジできる活力あるこころの状態の獲得が可能になる。互いにより寛容になることで、差別・攻撃(いじめやDV、虐待等)、孤独・うつ・ストレスが低減する。

わたしは素直になるほどと思ったのだが、この目標や、目標を取りまとめる人の人選にジェンダー的な観点が乏しいなど、これまたなるほどと思える指摘がなされており、なるほどと思った。(なるほどばっかりだな)

予防医療や昆虫食・量子コンピューターなど政府が既に着目して予算を出しているようなものばかりであるため、驚きは少ないかもしれないが、面白い内容であることは確か。