久保田圭一『究極の"コト消費"であるスポーツビジネス 成功のシナリオ』

著者はアビームのSport & Entertainment セクター長・執行役員という立場の方らしい。

近年アビームに限らずコンサルティングファームはスポーツビジネスの支援、さらに自らもスポーツチームのスポンサードや大会の協賛などを手掛けている。一般的にスポーツチームのスポーンサードや大会の協賛などはBtoCビジネスの企業が手掛けるものであった。それは当然で、BtoBよりもBtoCの方が「一般大衆への知名度」が売上に大きく貢献するという意味で「重要」だからである。BtoBも知名度があるに越したことはないが、BtoBの場合その業界で知られていれば十分というケースは多い。その意味で、コンサルのようなBtoB企業がスポーツビジネスを手掛けるのはわりと新しい流れなのだが、この流れ自体はわたしの中では既に整理がついており、「なるほど、そうだよな」という理由から当然の如く手掛けているのである。それ自体は本書の内容とは乖離するので割愛するが、さすが大手コンサルというだけあってよくまとまっている本ではないかと思う。

ただし2019年と5年前の出版である点、既にスポーツビジネスについて一定インプットした人間からすると「浅い」というか「当たり前」な話も多い。

例えば「データ分析が重要だ!」とあるが、まずスポーツを「ビジネス」として捉えるならばどんなビジネスでもデータ分析は必要かつ重要だ、だからスポーツにおいてもデータ分析は重要だ、という極めて陳腐な主張でしかない。おそらくスポーツビジネスの関係者が知りたいのは、知見もコストリソースも人的リソースも不足している中で、どんな目的でどんな分析をどんな目的で実施し、どう活用すれば良いのか、という一段階か二段階は深いissueなのだと思う。

また次にスポーツを「勝負事」として捉えた場合も、これもまた野球に統計学を持ち込むセイバーメトリクスなんて1970年代に提唱されたものだと聞く。未だにビジネス側面・試合側面のいずれにおいても、データアナリティクスが十分に浸透されているとは言い難いが、その要因の半分以上は「スポーツビジネス自体が認知度の割に小さなものであるため、データ分析にコストをかける余裕がない」という身も蓋もない現実でしかないと思う。その証拠に、メジャースポーツでは既にビジネス側面・試合側面の双方で事例は豊富である。例えば観戦時の(試合の前後を含む)観客の行動分析などをしたコンサル事例は検索するといくつも出てくるし、試合側面ではチーム単位ではなく選手単位でデータ分析をしているという話もよく聞くようになった。また、アメフトのような元々コスト構造としてデータ分析を重視している球技もある。

他にも、スポーツの生み出す熱狂にフォーカスしてスポーツの定義を拡大するという話も、2019年ではわりと先端的な話だったのかもしれないが、わずか5年で「当たり前」になった。eスポーツは言うまでもなく、麻雀のプロリーグ「Mリーグ」なども発足した。

その意味では、書籍よりもアビームやデロイトのサイトを観た方が、最新の情勢はよくわかる気もする。