こう1『姫さまは退屈を知らない』

姫さまは退屈を知らない (IDコミックス REXコミックス)

姫さまは退屈を知らない (IDコミックス REXコミックス)

「姫さまを国民総出でからかうべし。ただしバレぬよう。」という国是の下、国をあげて姫さまをドッキリにかけ、いじって楽しむというコメディー漫画である。ただしこれは『トゥルーマン・ショー』のように偽りの世界を真実の世界と信じ込まされた主人公が真実とアイデンティティーを探し求める物語ではないし、いじりからいじめに繋がる要素も0である。むしろ国民総出で、姫さまの幸せな毎日を支えているのである。

王女の即位の日まで、このドッキリが続けられるそうだが、真実を告げられた後、姫さまは一時、傷つき、悲しむかもしれない。しかし彼女は程なく気づき、そして驚愕するはずだ。

これまでの自分が想像できないほど大きな愛と善意に包まれてきたことに。

国民の愛と善意に深く感謝した女王は、自らの娘も同じようにドッキリの対象とする。その習わしが、この世界では数百年、数千年続いているのだ。これはただのコメディー漫画ではない。幸せな日常は作り上げるものだという、努力と意志の物語である。

なお本書はPixivでの連載や同人誌として出したものをコミックスとしてまとめたものらしいが、めっちゃ面白い。私は年のせいなのか、周囲の人が愛や善意や意志の力で、大変な努力で「幸せな世界」や「純粋な世界」を構築・維持して、主人公はそのことに朧げな感謝はしているものの、そのことの偉大さにはイノセントであるが故に気づいていない……という設定が最近どうしようもなく好きだ。それは具体的には、本書であり、『よつばと!』であり、『ばらかもん』である。もっと言うと、周囲の人々の意志と努力の偉大さに気づきはじめた主人公……という設定も好きである。それは具体的には、『それでも町は廻っている』であり、『もやしもん』であり、本作のラストシーンのノザキ女王の発言である。

話がそれてしまったので、そろそろ締めよう。一言で書くと、大推薦。続きを読みたい。