たなか亜希夫+橋本以蔵『軍鶏』極厚版 巻之壱・巻之弐

極厚版『軍鶏』 巻之壱 (1?3巻相当) (イブニングコミックス)

極厚版『軍鶏』 巻之壱 (1?3巻相当) (イブニングコミックス)

極厚版『軍鶏』 巻之弐 (4?6巻相当) (イブニングコミックス)

極厚版『軍鶏』 巻之弐 (4?6巻相当) (イブニングコミックス)

軍鶏の極厚版(愛蔵版のようなもの)。原作者の橋本以蔵と揉めて裁判沙汰を繰り広げた挙げ句、ほとんど投げっ放しジャーマンのようなとんでもない終わり方をした本作を二度と手に取ることはないと思っていたが、Kindleで極厚版の1巻が無料になっていたので思わず購入。2巻もついでに購入。巻之壱・巻之弐で、それぞれ1〜3巻と4〜6巻に相当するらしい。

元々、東大確実とまで言われたエリート君だった主人公・成嶋亮は、その真綿で首を絞められるような凡庸かつ平坦な毎日に絶望してプッツンしてしまい、気づいたら両親を刺殺。もちろん少年院にブチ込まれるわけだが、少年院の人間関係は予想を超えてハードボイルドで、成嶋亮は生き抜くために死に物狂いで空手を覚える……といったプロローグ。2年後、少年法に守られた成嶋亮は無事に少年院を出て行くわけだが、出て行っても高校中退の前科持ちにロクな仕事があるわけもなく、少年院で覚えた空手を武器に、危ない橋を渡りながら裏社会で生き延びていく。そんな中、格闘技ブームに乗って「空手」でとんでもない地位や名誉を得る菅原という空手家を目にした成嶋亮は衝撃を受ける。同じ「空手」なのに、自分は薄汚い闇の人生で、菅原は華麗なスポットライトを浴びた光の人生……成嶋亮は菅原に嫉妬し、執着し、何とかして格闘技イベントの場で菅原と戦ってブチのめしたいと思うようになる……大体こんな感じのアウトラインだろうか。

うーん、改めて読み返しても、やっぱり序盤は物凄く面白い。成嶋亮は決して赦されるはずがないし、赦されるべきでもないし、本人も赦されるように行動していないわけなんだが、でも日本のニュータウンを中心としたのっぺりとした空気、あの絶望感は確かに日本に存在した。とわたしは思う。キレてしまった人間が一人や二人出て来てもおかしくないという感覚があった。今はどうなんだろう。スマホやSNSも発達し、グローバル化も進展しているので、ああいう「どこにも行けない、どこにも続かない」という絶望感はもうないかもしれない(もちろんそれは日本が良い国になったということでは全然なくて、別種の何かがまたあると思うが)。