インキュベ日記

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日本橋ヨヲコ『少女ファイト』16巻

少女ファイト(16) (KCデラックス)

少女ファイト(16) (KCデラックス)

リアルタイムで読んでいる場合と、まとめて読む場合では、やはり感じ方は違うらしい。

わたしは日本橋ヨヲコの作品が大好きだ。『プラスチック解体高校』『極東学園天国』『バシズム』『G戦場ヘヴンズドア』『粋奥』『少女ファイト』と、商業発売の漫画は全て持っているぐらいには好きだ。わたしとしては青臭さ全開のバシズムが最も好きかもしれない。いや、でも出世作『G戦場ヘヴンズドア』も何十回読んだかわからないし、そんなこと言ったら最新作にして最高傑作の少女ファイトに触れないのは……と、日本橋ヨヲコ(ついでにIKKI創刊当時の諸々)関連で、まあ数時間は話せるんじゃないか。それぐらい好きである。

ただ、リアルタイムで読んでいると、展開の遅さと刊行スピードの遅さがダブルパンチで読み手を襲った際、どうも極私的テンションが下がる作品というのは存在する。例えば、おおきく振りかぶって。例えば、ベルセルク。例えば、ハンターハンター(キメラアント編ね。一気読みしてテンション爆上がりしたが)。そして、本作、少女ファイト。

わたしは主人公が通う黒曜谷高校の面々の活躍や成長を見たいわけで、もっと言うと主人公たちと因縁のある白雲山学園・朱雀高校・青磁学園との戦いを見たいわけである。けど、まあ焦らす。とことん焦らす。話の流れ的にクライマックスはこの春高であることが匂わされており、白雲山・朱雀・青磁と戦う前にじわじわっと盛り上げていきたい気持ちはわかる。しかしわたしとしては、ポッと出のちょいキャラ(作者的には違うのだが)のエピソードが延々出てくるのはホント辛かった。で、12巻ぐらいからは、新刊が出たらとりあえず目を通して「まだまだ展開遅いなー」と思う、そんな感じでわたしのテンションはどんどん下がったまま、4〜5年が経ってしまった。

今回、16巻を買ったあとも、まー今回もダラダラと長いんだよねという感じでしばらくは読みもしなかったのだが、ふと気が向いて、数十回は読んだ序盤も含め、もう1回、1巻から読み返すことに。

……。

…………!

……………………!?!?

テンション爆上がりです!!!!!

あれほどテンポが遅いと思っていた12巻以降も、1巻から通して読むと、(まあちょっと間延びしているが)気になるほどではない。しかも15巻で壮大な謎(というか陰謀というかカラクリというか黒幕というか)が出てきて、これも最初に読んだ時はほとんど読み飛ばしていて「ふん」としか思わなかったが、ちゃんと1巻から読み返すと、色々なピースがこれの下、ガッチリとハマるような気がしてきて、とにかく凄いとしか言いようがない。

そして16巻で描かれる朱雀高校との戦いは、ほぼ神回と言って良い。これぞ日本橋ヨヲコという描写である。

これはもう少し詳しく書きたい。

わたしが思うに、日本橋ヨヲコは3つの価値観を持っている。生き様への価値観だ。

ひとつ。学校空間や学校生活は楽しいもので、かけがえのないものだという価値観。これはもうほとんど全ての作品でそうだ。でも今日あまり語りたいことではない。

もうひとつ。大切なのは「今・ここ」で完全燃焼することであるという価値観。SLAM DUNKでも語られたよね。「オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本のときか? オレは……オレは今なんだよ!!」という名言。これを地で行くのが日本橋ヨヲコである。人生の価値は、細く長く生きた結果としてのトータル評価ではなく、瞬間最高到達点にある。そして人生のクライマックスシーンは本人が決めるべきものである、というものだ。これは『G戦場ヘヴンズドア』で強く示され、本作でも陣内監督の弔い合戦で示された。実は黒曜谷高校の校章や女バレのスポーツバッグにも示唆されている。今回語りたいのは、日本橋ヨヲコのこの価値観である。16巻が神回なのは、この価値観、いや生き様を、本来敵チームである朱雀高校の寺沼というキャラが見せつけてくれたことだ。

なお、3つ目の価値観は、2つ目で示した「今・ここ」で完全燃焼した後の話である。後先考えずがむしゃらに瞬間最高到達点を目指した結果、その人にとってのクライマックスシーンが終わってしまうことがある。あるいは挑戦に破れ、深い挫折を抱えることも。それでもなお、人は違うステージで生きて良いし、生きるべきだ……そんな価値観も日本橋ヨヲコは持っている。これは『バシズム』における「ストライク シンデレラ アウト」で強く示されたし、あるいは「インセクトソウル」における名言「五反田よ――っく見とけ オレがトラウマから立ち直る歴史的瞬間を」でも垣間見える。これも『G戦場ヘヴンズドア』における鉄男や組子の生き様で強く示された。本作においては、残念ながら主人公の姉の死をきっかけに多くの登場人物の時計が止まってしまったままだが、主人公はそのことに対して「呪いを解く」という決意を固めている。そう、呪いなのである。辛くても、人生の時計を進めなければならない、という強い価値観が示される。

さて、長くなった。17巻ではいよいよ青磁学園と戦うことになるようだ。今のところ「ラスボス感」満載だが、さてどうなるかな。楽しみ。てかあれだ、やっぱり長期に渡り連載している作品は、定期的にまとめ読みしないと駄目だな。