大島洋『管理職の心得 リーダーシップを立体的に捉える』

管理職の心得―リーダーシップを立体的に鍛える

管理職の心得―リーダーシップを立体的に鍛える

リーダーシップを論じた星の数ほどある本のひとつ。当初は「当たり障りのない内容ばかり書いているなあ」という感想しか持たなかったが、何度か手に取るにつれて「これは良い!」と思うようになり、結局は引きずり込まれるように読了した。とにかく、本書を触媒として「自分の考えや立ち位置」を整理しやすいのである。
まあ本書の狙いはまさに「そこ」にあるようで、俺が感じたことを、より詳しく「あとがき」で解説してくれている。

 企業の抱える問題の中で、人に関するものほど、理解は易しく実行が難しいものはない。言われてみれば誰もがそのとおりだと考えるような問題が大半であるにもかかわらず、実際にそれを実行する立場になると、人間の複雑な感情が絡んで、なかなか進むことができない。そこには、当事者の呪縛とでもいうべき状況が発生してしまうのだ。
 管理職をめぐる問題についても、同様のことがいえる。理屈で考えれば、当たり前だと理解できることでも、本人の立場にたつと、なかなか理解したとおりに実行できない。こうした状況を克服するためには、他人があれこれ言っても始まらない。仮に、第三者から言われて一時期にできたとしても、継続性には疑問符がつく。ここで、理解と実行の溝を克服するための一番のポイントは、本人が自ら気づくことだ。
 本書では、こうした認識から、「管理職の心得」として、「何をすべきか」ということに直接触れることを意図的に避けてきた。そうではなくて、「何をすべきか」ということを自ら考えるために有効と思われるさまざまな“視点”を示すことに焦点をあてようと試みた。というのも、人は視点が変わることで、新たなものの見方や考え方に効果的に気づくことができるからだ。
 自己変革へ向けての鍵は、日常の自分とは異なる視点を持って、現状を振り返ることができるかどうかにかかっている。実際、自分を客観視することができれば、他人に言われなくても、人は自分の至らないところをなおそうと、新たな行動を起こしていく。

行動を起こしたい/自己変革を促したいと思っている人に「精神論」とは違うアプローチを提示するという意味においては、本書は極めて有益な本である。また、理論を学びたいという方にとって有益な本かどうかはわからないが、けっこうマニアックなフレームワークや理論も紹介されていて、その意味でも意外に勉強になる。機会があれば、ぜひ一読を。
なお著者は、ILD(Institute for Leadership Development)の設立者であると共に、早稲田大学大学院商学研究科(早稲田大学ビジネススクール)客員教授でもある人物。