門田修平『外国語を話せるようになるしくみ シャドーイングが言語習得を促進するメカニズム』

第二言語習得の研究をしている著者による新書。以前読んだ本でも、第二言語は母語とは異なる習得の仕方になるということが書かれており、個人的には気になるテーマである。

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なぜ気になるテーマなのかというと、もう端的に、相当な馬鹿や努力しない人間でも世界中の人類の大半が母語をすんなり習得できている一方、第二言語になると、わたしのようにそれなりに努力している人間でも一向に習得できない、というその違いである。もちろんやり方が良くないだとか、そもそもこの手の本ばかり読んでいて実際のトレーニングの時間が少ないとか、色々あるのはわかっているんだけど、それでも、もう少しスッと大人間語を習得できて良いんじゃないかと思うわけですよ、ええ。

閑話休題。そんな中、本書は、第二言語習得の研究をしている著者がシャドーイングを徹底的にやったらどうなるかというのをまとめている本だというので、気になって買ってみた次第。

ここから内容に入るが、著者が言うには、会話をするときには、少なくとも以下3つの同時並行処理が行われているとのことである。

  1. 話し相手の発話を聞いてその発話の文字どおりの意味を理解し、その上でその発話の意図を解釈する 「理解」
  2. 理解した発話の意味や相手の意図をもとに、どのように反応(返事)をするか考える 「概念化」
  3. 言うべき内容(メッセージ)が決まったら、それを言語化して、発音して産出(アウトプット)する 「発話」 ※内容ではなく、どんな単語・文法や構文にするかを決めるのも、この「発話」における言語化の処理のひとつ

わたしは早口だったり難解だったりする英文は当然のこと、簡単かつゆっくりとした英文であっても、最初の数語は良くても2〜3行も音声を聴いているとほぼわからなくなる。また、ちょっと関係代名詞や分詞構文があるともう一気にわからなくなるし、意味のわかる言葉でもスッと思い出すのに手間取ったりするともうお手上げだ。

それはひとつには、よく言われる「返り読み」が挙げられるだろう。英語を、書かれた語順のとおりに理解しなければ、リーディングはともかくリスニングでは太刀打ち出来ないということである。

だが、もうひとつ本書を読んで理解したのは、同時並行処理に慣れていなければ一向に喋れるようにはならないということだ。母語の場合、上記の「理解」と「発話」はほぼ自動的に行われる。「概念化」→「発話」の流れもほとんど瞬間のうちに行われるだろう。

シャドーイングは、「理解」と「発話」を自動的に行えるようにする、いわば外国語の運用を母語に近づけるためのトレーニングである。聴いた言葉を、少し遅れてオウム返しのように発話する。例えば、ラジオ音声や歌を少し遅れて繰り返すことは、母語だとそこら辺の子供でもちょっと練習すればできるようになると思われるが、外国語になると全然できない。それを10万語や100万語のレベルで大量にシャドーイングすることで、まるでネイティブのように自動化できる……それが、著者が述べるシャドーイングのメリットのうち最も大きなものだと思う。

なお、わたしは現在シャドーイングをしているが、著者が言うような「多くの量をこなすシャドーイング」ではない。言うなれば、精聴的なシャドーイングをしている。同じ音源を何度も聴いて、イントネーションやリエゾンを理解し、自分で喋れるようになるまで徹底的に解析する。その後、まずスクリプトを見ながらシャドーイングができるようになり(テキストシャドーイング等と呼ぶらしい)、その後やっと、スクリプトを見ずに本来のシャドーイングができるようになる。当然手間はかかるが、ここまでやると流石にその文章は自分のものになっている。そうやって「手駒」を増やす、そんなイメージである。

慣れてきたら、著者が言う多聴的なシャドーイングも実施してみたい。

補足

この人、けっこう色々な本を出してるな。本書と内容が被りそうだが、ちょっと読んでみたい。