- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/07/22
- メディア: Kindle版
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第4弾のモチーフは、やや複雑だが、わたしは「巨悪」という、やや本質論的な問いかけなのだと思った。
本作では、ひき逃げ、放火、殺人事件といった一見バラバラの事件が同じ所轄内(主人公が勤務する大森署の管轄内)で発生する。それぞれを捜査するうちに、どうやらそれは海外マフィア絡みであることがわかったり、外務省も関係していることがわかったり、麻薬取締官(麻取)が追っているネタと絡んでしまったりして、凄く面倒なことになってしまう、という流れである。
公安が検挙する政治家の汚職だの、麻取が検挙する麻薬犯罪だのは、目の前の犯罪行為を見咎めて犯人を捕まえれば良いというものではない。汚職構造の解明や、密売ルートの解明といった、悪の構造を暴き出し、悪を根絶するような対応が求められる。だから公安や麻取は「敢えて」犯罪者を泳がせたり、いわゆる司法取引に近い行為を公然とやったりするわけである。しかし現場の警察官は、目の前の犯罪行為を見過ごすわけには行かないし、見過ごすと当然怒られる。しかも公安や麻取と警察署の組織間の関係性もあったりして、繰り返すが、もう物凄く面倒なことは本書を読んでよくわかった。
で、主人公である。主人公は「原理原則」の信奉者だから、そうした面倒なことをすっ飛ばすチカラがある。そして既に降格人事を食らっているわけだから出世は半分諦めており、その点でも強い。よく考えられた主人公像だと思う。
補足
続きモノなので以前に書いた本シリーズの紹介を、初見の方のために再掲しておく。
本作はいわゆる警察小説である。なので事件が発生して解決する推理ドラマと、警察組織の中でのドラマ、そして主人公の家庭内ドラマ、この3つのドラマが基本的に平行して走ることになる(最初の2つだけのこともある)。しかし本作は他の多くの警察小説と異なる点があり、主人公は警察官と言っても現場の刑事ではなく、キャリアである。警察官僚とも呼ばれる上層部のエリートなのである。さて、ここからはネタバレを含むので簡単に書くが、主人公は元々キャリアであることに大きな誇りと使命感を抱いており、順調に出世もしてきた。だが、自身の信条である「原理原則」にこだわった結果、1巻のラストで大森署の署長という降格人事を受けてしまう。しかし主人公は、独自のキャリア信条に忠実に、たとえ降格されても公のために働き続けるという選択をし、降格人事を受け入れる(通常は皆この時点で辞める)。そして降格先の大森署で、辣腕を振るい始めるのである。