ポール・ストラザーン『90分でわかるヴィトゲンシュタイン』

哲学者シリーズ第4弾。

今までの同シリーズからも明らかなように、一流の哲学者は一流のレトリックでもって哲学を書き記すことが多いようだ。ヴィトゲンシュタインも例外ではない。本書を読むと、ヴィトゲンシュタインも一流のレトリックを駆使した哲学者であることは疑いない。例えば、彼の『論理哲学論考』では、短く明晰な言葉をどんどん畳みかけてくる。そしてここでは論証が最小限にとどめられているのだ。もちろん議論や学問において論証は絶対であるから、論証は「美しさを損ねるだけ」と考えるのは明らかにヴィトゲンシュタインの落ち度であるかもしれない。

一方、作者のポール・ストラザーンはこう考える。

人目を引く力強い断言を述べるだけで、その力強さを曇らせる正当化や論証を一切省いたら、どのような結果になるか? ヴィトゲンシュタインの語ることに、謎めいた神託のような力を与えることになるのである。ときには、「真理」よりも「効果」の方を狙っていたのではないか。

なるほど、確かに本書で何度も引用されているヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』は、むしろ哲学的な詩と呼んだ方がしっくり来るくらい、独特の雰囲気を持っている。