小林よしのり『新ゴーマニズム宣言スペシャル 戦争論2』

「1冊ワンテーマ」の「漫画」に限れば、『差別論』『脱正義論』『戦争論』『台湾論』に続くゴー宣スペシャルの最新作である。てゆーか、544ページ書き下ろしだってさ。長すぎでしょ。いやマジで。とりあえず本書は基本的に『戦争論』の流れを踏襲しているので、まず『戦争論』を要約しておこう。とりあえず3つにまとめてみた。

  1. 「平和」とは「秩序」が維持されている状態である。したがって「平和」の反対は「戦争」ではない。「平和」という状態の反対は「混乱」「無秩序」という状態であり、そして「戦争」という手段の反対は「話し合い」という手段である。したがって、今の価値観から思考停止的に、手段である「戦争」を「悪」と断じたところで戦争体験を活かしたことにはならず、帝国主義まっさかりという当時の世界を念頭において第二次世界大戦を考えねばならない。
  2. たとえ嘘でも反省し謝罪すれば知的で誠実な態度であり、それに異論を差し挟むこと自体を許さない、そのような戦後民主主義的な「空気」が蔓延している。ここでは、戦争は全否定であり、事実でないことを事実でないと指摘すること許されず、反省という態度が事実に優先された、紛い物の「真実」が執拗に卑屈に捏造される。
  3. 共同体においては義務を果たすことで権利を獲得できるのであって、「市民」は義務を果たして初めて権利を享受・主張できる。第二次世界大戦においては、日本を守る――つまり「共同体の秩序維持」という共同体で最も重要な義務を果たすために、多くの人々が犠牲となった(それは今も昔も軽々しく戦犯と断じて良いはずはない)。しかし戦後日本の「市民」は、自分かわいさの各自のエゴが肥大するあまり義務から目をそむけている。義務を果たさず権利ばかりを主張するのは「市民」ではなく「私民」である。

いつものようにかなり乱暴なアウトラインだが、あとはここに小林よしのりの愛国主義的エッセンスを振りかけたら『戦争論』になる。本書も基本的には『戦争論』と同じ話であるから、『戦争論』のポイントを押さえておけば『戦争論2』も読めると思う。個人的に本書で興味深いのは、上のアウトラインの2つ目の部分である。この部分は本書において『戦争論』以上に強調され、客観的(と小林よしのりが主張している)データを多用して縦横無尽に主張を展開している。そのトピックは従軍慰安婦に南京大虐殺・中国や韓国の反日ナショナリズム・第二次世界大戦の裏側など多岐に渡る。小林よしのりの熱病の如きテンションは横に置くにしても、確かに戦後日本の置かれたポジションは全く不当であり、小林よしのりの主張は(際立った愛国主義的エッセンスを除けば)正当であろう。俺は詳しくは書かないので、自分で確かめてほしい。