渋井哲也『Anonymous アノニマス』

アノニマス

アノニマス

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帯が本書の問題意識やスタンスを端的に示していると思うので、引用しておく。

「生きづらい」と感じることは弱さではない。
不登校、援助交際、自殺、リストカット、摂食障害、家出、虐待、過干渉、抑圧……。学校や家族や友達、現実の世界では、うまく自分の思いを表現できない「生きづらさ」系の若者たち。彼らは、「名前」から逃れて、何を想い、何を求めて、インターネットをさまよっているのか?

本書は、現実に適応できず、現実社会での生きづらさを抱えてネットに救いを求めたり逃避したりする人々を取材したノンフィクションである。「ネットを匿名で漂う人々」といった副題がつけられているように、確かにインターネットの匿名性は、現実の社会に適応できない人が「現実社会の関係」をリセットしたところ(インターネット)でコミュニケーションを取るときには有意義なものと言える。

ただ、いわゆる「ネットジャンキー=インターネット中毒者」はほとんど取り上げられていない。インターネットに否応なくハマって抜け出せなくなってしまうというよりは、本書では、現実社会に適応できずに自傷行為(いわゆるリストカット)を繰り返す人などが、インターネットをどのように位置づけ、インターネットとどのように関わることでバランスを取っているのかを、取材によって明らかにしようとしている。

もっと文章は練られて良い(はっきり言えば下手)と思うが、なかなか興味深い内容ではある。特にインターネット内のコミュニケーションに興味のある人や引用部分のキーワードに興味を示した人は、読んでみて損はないと思う。