七田眞『七田式超右脳記憶法』

非常勤講師としてバイトしている塾に「右脳で記憶がホニャホニャ」というのが置いてあったので、ちょっと興味を持って読んでみた本が、本書である。ただ、この七田眞という人、かなり胡散臭い。波動法読書とかいって1冊を1分だとか5分だとかで読めるとかいう話を聞いたことがある人もいるかもしれないが、それを言っているのが著者である。まず1冊を1分や5分で読み切れるのかという疑問と、仮に読み切れたとしても内容を理解できているのかという疑念。そんな荒唐無稽なことを言っている人だということを予め書いておきたい。

やはり本書で目を引く内容は「理解を前提とした左脳記憶の処理速度は遅い」ということである。いや、本当の話かどうかはよく知らないのだが、左脳を使うよりも、理解を前提とせずイメージや反復などを利用して「処理速度の速い右脳に記憶させる」ことが暗記では大事なんだそうだ。例として、ひたすら音読を繰り返すことなどによって体に染みこませる「素読」や、「読経」などを挙げている。

素読とは、一昔前に知識階級の教養とされた「漢文」の勉強などで利用されたそうだが、返り点や置き字などを1つ1つ系統立てて教えるのではなく、ただひたすら教師の後に続いて音読し、ひたすら暗唱するまで(あるいは暗唱しても)音読を続けることで、「自然にわかる」という地点まで到達しようとする勉強法である。読経は、ひたすら一日に何百回も経典を音読することだ。当たり前だが、しばらくすると経典が自然に口をついて出るようになる。もちろん暗記できている。

つまり「理解」よりも「高速大量インプット」を重視するのが著者の言う右脳記憶法なのである。そして高速大量インプットを続けているうちに、従来「左脳記憶」のみを使うように訓練されてきた脳が「右脳記憶」に順応するようになり、暗記の時間が目に見えて少なくなるばかりか、見ただけで本を「映像」として頭に焼き付けることが可能になったりするそうだ。さらには予知能力や透視能力まで身につく人もいるそうだ……が、真面目に対応するのもアレだから、ここらへんはジョークとして流しておくことにしよう。

「予知能力」「透視能力」「性格が前向きになる」といったことは胡散臭いが、音読などの反復行為によって「体得」していこうという流れは、英語学習などでもメジャーになってきた考え方だし、学習全般で最近よく強調して言われていることだ。ウダウダ言うより実践しろって奴ですな。『海馬』でも脳科学に明るい池谷裕二が「繰り返し」の効果について語っていた。そう考えると本書の記憶法は、真っ当な一面も持っている。