クラフト・エヴィング商會『すぐそこの遠い場所』

「アゾット」と呼ばれる不思議な世界を記した事典――とでも書けば良いだろうか。非常に説明しづらい本だ。もちろん「アゾット」とは実在する世界ではなく、空想世界である。クラフト・エヴィング商會は、本書に先立って『クラウド・コレクター』なるアゾットの空想旅行記録を書いており、本書はその姉妹書なのだそうだ。しかし単独で読んでも面白いことは面白い。

仮に「ここでないどこか」をイメージ豊かに描いたものを「ファンタジー」と呼ぶならば、本書は非常に上質なファンタジーと言えるだろう。本書を読むと何とも形容しがたい独特の楽しさがある。装丁も洒落ていて、何気に気が利いている――と思ったら、このクラフト・エヴィング商會なる集団は本の装丁やイラストを多く手がけていることでも一部で有名なのだそうだ。本書を的確に説明するのは難しいが、とにかく異質な集団・異質な作品であることは間違いない。けっこうシリーズあるようだから、機会があれば他のも読んでみるかもしれない。

なお「商會」は「商会」である。