牟田武生・監修『池上彰が聞く「僕たちが学校に行かなかった理由」』

池上彰はNHKの記者・キャスターで、教育問題に造詣が深い。また牟田武生は1972年に「教育研究所」なるものを設立して、不登校や引きこもりの子どもの支援を行っている。本書では3年分の「不登校シンポジウム」の模様が収められているが、ゲストパネリストは、引きこもりや不登校を経験した(そして大部分は引きこもりや不登校を克服した)二十歳前後の青年である。池上彰が彼(女)らの話を聴き、会場の質疑応答を行うという構成になっている。

彼らの話を聴いて感じるのは、やはり不登校や引きこもりの原因を単一的に括るのは難しいということだ。例えば、不登校のタイプを大きく3つに分類したものとして、「遊び非行型不登校」「意図的不登校」「情緒混乱型不登校」が挙げられているが、特に情緒混乱型不登校などは、それぞれのケースで問題の所在はかなり異なっている。その原因が、学校の制度にあるのか、勉強にあるのか、家庭環境にあるのか、いじめなどの交友関係にあるのか、精神的なトラブルにあるのか、それら全てか、原因も対応も千差万別であろう。学校に行く時間になると体調が悪くなるといった身体症状が出るかどうかでも対応は変わるだろう。

教育問題に限らないことだが、最近かなり気になっていることとして、「一元的な理解や二項対立的な理解が不可能な場合でも、問題を単純化するために、そうしていることが多々ある」ということがある。本書に登場する不登校や引きこもりの経験者が語る「あの時こうして欲しかった」というメッセージは、実に多種多様だ。「いじめられっこが学校を休む」「エリート層が親の過大な期待に答えられず学校を休む」「学校の先生のフォローが足りなかった」「親子の対話がなかった」といった単純な図式には収まりきらなくなっているのが現状だろう。不登校や若年層の引きこもりといった限られた問題だけでなく、教育問題全般をきちんと再検討するためにも有益な本だと思う。