相田洋『NHKスペシャル マネー革命 [第3巻] リスクが地球を駆けめぐる』

マネー革命シリーズの最終巻。現在は、マネーをめぐるリスクをヘッジ(回避)するために、高度な理論を駆使した非常に複雑な金融商品が飛び交っている。しかし、その極度に高度化・複雑化した金融システム故に、逆に金融をめぐるリスクは俺らには見当がつかないほどクリティカルな問題となってしまっている。

その問題は、俺ら一般人にとっては、大きく分けて2つだと感じた。1つは、リスクをヘッジするための手法が複雑化し過ぎたために、何がリスクで、どのようにリスクをヘッジしようとしているのか、もう俺らには難しすぎてわからなくなってしまっていること。もう1つは、リスクをヘッジする手法がリスク管理ではなく投機として使われていることで、リスクヘッジの手法が逆にリスクを呼び込んでしまっていること。俺らの全く知らないところでマネーゲームが開催され、ちょっとしたきっかけで世界中の金融システムが壊滅するほどの天文学的な額のマネーが動いている。1日に世界で動く金は2000兆円だそうだ。

現代社会において、一体どのようなマネーをめぐるリスクを社会は内在的に孕んでいるのか。そしてそのリスクは一体どこまで俺たちにとってクリティカルな問題なのか。それを、『NHKスペシャル マネー革命 [第1巻] 巨大ヘッジファンドの攻防』『NHKスペシャル マネー革命 [第2巻] 金融工学の旗手たち』と同じく、「人」に焦点を当てることで明らかにしようとするのが本書の試みだ。

『NHKスペシャル マネー革命 [第2巻] 金融工学の旗手たち』にも出てきた、世界最高峰のヘッジファンドの破綻の真相、無断取引で1100億円もの金を損失を出したトレーダー、たった1人の無知でアメリカの地方自治体(日本で言う県レベルである)を破綻させた財務官、世界大恐慌に繋がりかねなかったブラックマンデー、国家レベルで財政破綻したロシア――様々なリスクの形がケースを元にして説明されている。

少し分厚いが、非常に読みやすい文体と構成なので、それほど苦労することもあるまい。デリバティブの意図や課題などが比較的すんなり理解できるし、本書を読んで、もっと「リスク」の存在をきちんと知るべきだと痛感した。さらなるリスク社会の到来(それは確実に訪れる)に対し、俺らは一体どのような意識で対峙すべきなのだろうか? マネー革命シリーズは、その課題に対するきっかけやヒントを与えてくれる。必読だと言って良い。