大前研一『チャイナ・インパクト』

中国は既に経済的には中央集権国家ではなくなっていて、6つのメガリージョンが互いにライバル意識と危機感を持って競い合う連邦国家となっている。幾つかの不安要素はあるにせよ、農村に残る9億人の安い労働力や広大な国土・バイタリティと勉強意欲に溢れる国民性を考えても、これから中国が沈むことは考えにくく、これからの日本は、中国を脅威論や楽観論で捉えることなく、ありのままの中国の姿を見据えた上で、「日本として、どう利用してやるか」を考えねばならない――といったアウトラインだろうか。かなり深い内容を孕んだ本なので、少し乱暴な要約になったかもしれないが、少なくとも的は外していないと思う。

大前研一の本を多く読んでいる人には「メガリージョン」という聞き慣れない造語も大方の予想はつくのだろうが、そうでない人には、大前研一の基本スタンスを簡単に説明する必要があるだろう。まず大前研一は「地域国家論」というものを提唱している。実は俺も詳しいわけではないのだが、語弊を覚悟で乱暴に書くならば、1985年を境としたIT社会においては、だいたい300万人〜1000万人くらいの人口の単位が、最も資本を呼び込みやすく、独自色を保ちつつ経済的にも発展できる地域(リージョン)の規模なのだそうだ。それより大きくても小さくても、経済的ダイナミズムや独自色を生み出せず、思うように資本を呼び込めない。だから大前研一が東京都知事や参議院の選挙に出馬したときは「都道府県という小さすぎるリージョンの単位から、もう少し大きな10前後のリージョンの単位に変えて、それぞれの地域が独自に競い合いながら発展する道州制国家に日本を変えよう」と言っていた。今も言っている。実際、シンガポールやアイルランドといったITを利用して発展した国家は、人口300万人〜1000万人の都市国家である。土地も資源も労働力も軍事力も乏しい中で、戦略的に発展した好例である。

そう、つまりメガリージョンとは、リージョン(人口300万人〜1000万人)の集合体のことなのであるが、そうした大前研一の主張を踏まえて現在の中国を見てみると、中国は決して均等に発展しているわけではなく、独自性を持った沿岸部の6つのメガリージョンが内陸部を引っ張る形で、互いに競い合うようにして発展していることがわかる。そして、それぞれのメガリージョンが、あたかも1つの国であるかのような経済的ポテンシャルを秘めているのである。こうした状況が起こっているのは、中国が政治的な中央集権を保持している一方で、経済的には非常に大胆な法整備を行うことで、日本やアメリカを初めとした外資系企業をどんどん誘致し、しかも国営企業にも改革の大ナタを振り下ろし続けているからである。反面、日本を振り返ってみると、まだまだ日本には世界をリードする経済力や技術力があるのに、日本は資本を呼び込める形には全然なっていないし、中国などの外国を利用するビジネスモデルもそれほど整備されているわけではない、ということがわかる。

これから必ず起こるであろう(いや、既に起こり始めているか?)深刻な日中摩擦や、一人っ子政策が引き起こす爆弾、産業空洞化の本当の意味など、中国の経済的発展の構造と衝撃の他にも色々と興味深いことを多く書いており、まさに必読である。俺が今までに読んだ大前研一の著作で最も素晴らしく、また衝撃的な本である。まさにインパクト!