団鬼六『お柳情炎』

お柳情炎 (幻冬舎アウトロー文庫)

お柳情炎 (幻冬舎アウトロー文庫)

インキュベ日記では、基本的に読んだ本は(忘れている場合を除き)ノンジャンルでアップしてきたが、「塾講師時代に読んだ参考書」「学生時代に読んだ学術書」「官能小説やエロ小説の類」はほとんどアップしていない。参考書や学術書は数が多すぎたし、官能小説やエロ小説の類は少し趣味的に過ぎると思うからである。
今だからカミングアウトするが、高校の部活の戦友が、部活の休憩中、まるで堀辰雄の『風立ちぬ・美しい村』を読むような静謐さでフランス書院文庫を読んでいたのを目の当たりにして以来、高校時代、けっこうな数のエロ小説を読んできた。それも、学ラン姿で立ち読みしたり、授業中に読んだり(アホクラスだったので、俺と同じく衝撃を受けたクラスメートの間でブームになった)、カバーを掛けて電車の中で読んだりと、ありえないシチュエーションで堂々と読むのが好きなバカ高校生だった。フランス書院文庫に限らず、マドンナメイト文庫や講談社アウトロー文庫、その他けっこう読んだ記憶がある。
しかしマイブームが意外と早く終わりを迎えたのも確かで、というのも一言で書けば飽きたのである。わざとなのか本当に下手なのか知らないが、とにかく稚拙な文章が多かったし、卑猥な言葉を直接的に並べ立てれば良しとする作家が多いのも気になった。そもそも「こわばり」だの「ラビア」だの「アクメ」だの、エロ小説以外では全く使われない言葉が頻出して、何だか滑稽である。それともオッサンやジジイはこれらの言葉を本当に使っているのだろうか。「おっちゃんのこわばり、見てごらん」とか? アリエネー!
というわけで、それ以降は団鬼六の本を時々買う程度だった……と、やっと本書に戻ってきました。団鬼六は、文章や描写が下手くそではないし、SMへのこだわりがスゴいし、直接的な言葉を並び立てて良しとするような類の作家でもなく、数少ない鑑賞に耐えうる官能小説の書き手ではないだろうか。増えすぎた本を処分しようと整理していたら出てきた本なのだが、まだ何冊か家にあるので、それらはブックオフに売る前に読み返したい。
本書は、敵陣に乗り込んだ女賭博師お柳が返り討ちを食らってしまい、あれよあれよと卑劣漢どもの餌食になるが――といったアウトライン。女賭博師といった和風なテイストが団鬼六の醸し出すSMの情炎にマッチし、団鬼六の中でもお気に入りの本。