荒俣宏『帝都物語 第伍番』

帝都物語 第伍番 (5) (角川文庫)

帝都物語 第伍番 (5) (角川文庫)

350万部も売り上げた、言わずと知れた大ベストセラーシリーズの第5巻。以前は全12巻だったようだが、阪神大震災の起こった95年、全6巻の新装合本版として刊行されている。本巻は『帝都物語7 百鬼夜行篇』と『帝都物語8 未来宮篇』を合本再編集した新装版である。舞台はいよいよ戦後、そして「未来」へと繋がる(ちなみにカギカッコつきの「未来」としたのは、あくまでも『帝都物語』シリーズの書かれた1980年代から見た「未来」であり、2005年以前が舞台だから)。
本巻の前半は、安保問題や学生闘争に揺れる昭和30年代を舞台としている。中国の秘術により屍解仙(仙人)となり若返った『帝都物語』シリーズ最大の魔人・加藤保憲は、情報将校として自衛隊に入り込み、帝都を内部から腐らせるべく暗躍する。その過程で加藤保憲は、日本を代表する(あるいは象徴する?)作家・平岡公威(三島由紀夫)と危険な邂逅を果たす! 一方、全学連に協力するべく、「邪視」を駆使する稀代の超能力者・ドルジェフが日本へと乗り込む。魔人・加藤保憲、ドルジェフ、巫女・目方恵子、平岡公威の思惑が錯綜しつつ、三つ巴・四つ巴の戦いが繰り広げられる!
そして本巻の後半は、既に述べたように、ついに「未来」を舞台とする。昭和61年の伊豆諸島の三原山の大噴火、それに刺激された三宅島・八丈島・浅間山の大噴火、さらに伊豆半島と房総半島で起こった直下型大地震により、200万人の難民が大挙して帝都・東京へと流入を始めた。200万人もの急激な人口増大を受け容れるため、東京都は10年間限定で、各種公共施設の難民への<開放>を決定する。しかし、戦争による荒廃・終戦と復興の混乱・度重なる天変地異・極めつけの東京都の<開放>政策により、治安も人心も荒れに荒れ、跋扈する魔物も増えて――というシチュエーションの「未来」である。
カルトや流入民の摩擦といった近年の問題も提起されるなど、いやはや、1995年の阪神大震災より前にこの設定が考案されたというのは驚きと言える。まさに1990年代や世紀末を予見(予言?)した物語と言えるだろう。猛烈に必読!