伊坂幸太郎『死神の精度』

死神の精度

死神の精度

死神が主人公の短編集。寿命を全うできない人の死には死神が関わっており、死神は、対象者に接近して7日間ほど「調査」を行い、「可」か「見送り」かを決定する。「可」の人間は8日目に死ぬわけである。といっても調査は形式的・儀礼的なもので、大した調査もなく、ほとんどの場合「可」の評価が下される。だからすぐに評価を下しても良いのだが、死神がそうすることはまずない。死神は皆「ミュージック」をとても愛しており、CDショップで思う存分「ミュージック」を堪能するために、彼らは7日間の調査期間をギリギリまで引き延ばし、人間の世界に居残って「ミュージック」を聴く――という何とも変わった設定である。
死神の主人公が人間的な感情を持つことはなく、結果、主人公に感情移入することもない。しかし死神の乾いた視線を通して、人間の切なさが描かれる。終始独特の抒情が作品を覆っており、強く心を打った。また、劇団ひとりの『陰日向に咲く』もそうだったが、それぞれの短編の登場人物が緩やかに繋がっているような構成は、俺の好みである。先日読んだ伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』は正直あまりよくわからなかったが、本書を読んで伊坂幸太郎の評価が変わった。かなり面白い。